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就業規則を厳しくすることはできるか

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

就業規則を厳しくすることはできるか
【2008年10月】


 相撲取りが麻薬所持で逮捕されましたが、最近若者の間で大麻などが流行っていると聞きます。もしもうちの病院でこのようなことがあったら大変です。就業規則を改正してこのようなことには厳しく対処したいと思っています。これは3月から施行された労働契約法で就業規則の不利益変更の趣旨から問題ないでしょうか。

A
 確かに大麻所持事件は深刻です。大学の名門ラクビーチームや芸能人の関係者で逮捕者が出るなどかなり広がっているようです。このような時ですから、就業規則を変更し、麻薬などの所持には厳しく対処することは当然です。就業規則の不利益変更にもならないと思います。


 しかし、厳しくするのですから反発もあるかもしれません。また、こんど私白身禁煙したのを機に、施設内での喫煙を全面的に禁止しようと思います。これも就業規則の不利益変更になりませんか。

A
 私は不利益変更にならないと思いますが、仮に不利益変更であったとしても、今回の労働契約法は不利益変更を禁止しているわけではありません。


 労働契約法第9条では「就業規則の変更により、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」とありますよ。

A
 しかし、「但し書き」があります。「変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者のうける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性」などに照らして合理的なものであるときは就業規則の定めるところによることになっています。医療機関としては禁煙は当然だと思います。


 合理的なものであるかどうかは誰が判断するのですか。労働基準監督署ですか。

A
 いえ、労働基準監督署はそのような判断をしません。労働基準監督署は労働者代表の意見書を付けて就業規則を申請すれば受け付けます。最終的に判断するのは裁判所です。


 労働者代表の意見書が「不利益変更だから反対」となっていても、労働基準監督署は受け付けますか。

A
 そうです。就業規則の変更は、別に労働者代表の同意を得る必要はありません。意見を聞けばいいのです。


 そうすると、一部に反対の従業員がいてもその就業規則は有効になってしまうのですか。

A
 そういうことになります。就業規則が有効となれば、反対した従業員であっても規則が適用され、敷地内で喫煙すれば就業規則違反となります。


 施設内でタバコを吸った従業員は「私はそのように変更されたことを知らなかった」とはいえないのですね。

A
 キチンと手続きをしていれば「変更されたことを知らなかった」ということはないと思いますが、従業員に就業規則を十分周知させておくことは大切です。


 周知といっても、就業規則などは無味乾燥で面白くもない文章です。いくら就業規則を読めといっても読まない場合はどうなるのでしょうか。

A
 「周知」といっても、就業規則を読了することだとは言っていません。就業規則の周知とは①常時事業場の見やすい場所に提示し、または備え付けておく②書面を労働者に交付する③磁気テープ、磁気デスクに記録しいつでも見られるようにしておく―ということです。つまり、従業員が知ろうと思えば、いつでも就業規則の存在や内容を知り得るようにしておけばいいのです。実際に知っているかどうかは関係ありません。


 そうすると新しい就業規則に少しぐらい反対があってもいいわけですね。

A
 理屈ではそうです。しかし、医療機関として喫煙場所の廃止の意義を知っていただくため、全員の同意を得るよう努力することは、今後のトラブルを防ぐためにも大切です。

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