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労働契約は書面で―口頭約束はトラブルの元

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

労働契約は書面で―口頭約束はトラブルの元
【2009年7月】


 私の友人の医院で退職した看護師から退職金をもらっていないと訴えられています。退職金は支払わなければいけないのでしょうか。

A
 労働契約がどうなっていたかです。退職金制度のない事業所では退職金を支払う必要はありません。


 私のところは、退職金制度があるかどうか聞く職員もいませんし、退職金を支払うと約束したこともないので、退職した職員から「退職金を支払え」ということはないですね。

A
 職員の方も先生のように受け取っていれば問題ないと思います。ところが「10年も勤めていれば退職金ぐらい当然ある」と、先生から見れば勝手に思い込んでいる場合があります。現に私の関与している診療所でも30年も勤めたのだから退職金は当然だといって労働組合に加入し要求してきている事例もあります。


 退職金制度はないと明確にしておけばいいのではないですか。

A
 そうです。しかしこのようなトラブルがあまりにも多いので労働基準法では労働者を雇い入れる際には労働条件を書面で明示することが、義務付けられています。「仕事をする場所と仕事の内容」「始業・終業の時刻、所定労働時間外労働の有無」「休日・休暇」「賃金」などは必須です。退職金についても定めがあるなら退職金を支給する範囲、計算方法、支払い方法、支払い時期など書面で明示することになっています。これに違反すると30万円以下の罰金ですからかなり重要なことです。


 パートはどうですか。

A
 2008年4月1日からパートタイム労働法が変わりました。ここで強調されているのは、上記に加えて「昇給の有無」「退職手当(退職金)の有無」「賞与の有無」を明記することです。


 これに違反すると罰金ですか。

A
 いえ、罰金ではありませんが、違反の場合、行政指導によっても改善が見られなければ、10万円以下の科料に処せられることになりました。


 罰金と科料では違うのですか。

A
 簡単に言えば罰金は裁判を前提にしています。科料は交通違反のたとえば駐車違反の切符です。かなり行政に裁量権があります。


 私も、昔病院に勤めたとき労働契約書など結んだ覚えはありません。労働契約書をいちいち結ぶ経営者などいないのではないですか。

A
 確かに昔は大企業も含めて労働契約書を結ばないところがありました。しかし、時代が変わりました。雇用するときは契約書を説明しながら契約を結んだほうがトラブルを防ぐことができます。


 「昇給や賞与もない」と決めれば、そうできるのですか。

A
 労働者にとっては厳しい話ですが、決まりが無ければ昇給もする必要はありません。最近は昇給や賞与については「その都度」とするところも増えました。


 昇給はしなくてもいいのですか。

A
 医療機関では職員の能力が上がっても直ちに医療機関の収入が増えるということでないので最近は昇給が難しくなっています。しかし、毎年月々に支払うものは少しづつでも増えていかないと働く者のモチベーションは下がるといわれています。


 労働契約書の見本はありますか。

A
 保団連発行の『医院経営と雇用管理』(月刊保団連臨時増刊号)に「労働条件通知書」がありますし、担当まで連絡いただければメールで送ることもできます。

補足〉前回、中小企業主について「健康保険は使えません」と回答しましたが、5人未満の事業所で一般の従業貝とあまり変わらない仕事をしているときは、健康保険から療養の給付のみあります。

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