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パート労働法は今年の4月から施行

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

パート労働法は今年の4月から施行
【2008年3月】


 パートの看護師から、1年たっても時給が変わらないのはおかしいといってきましたが、昇給はしなければならないのでしょうか。

A
 診療所の就業規則あるいは賃金規程はどうなっていますか。


 私のところは、就業規則などありません。

A
 職員の方は何人ですか。


 5人です。

A
 パートも含めて従業員が10人以上の場合は、就業規則の労働基準監督署への届け出が義務付けられています。従業員が10人未満の事業所はそこまで要求されていません。しかし、トラブルを避けるためにも就業規則は作成して、職員の方に周知した方がよいでしょう。保団連発行の『医院経営と雇用管理』(特集・経営対策シリーズ2007)に載っていますから参考にしてください。雇用契約書はどのようになっていましたか。


 口頭で時給を告げただけですから、そのような契約書はありません。

A
 労働基準法では賃金・労働時間などについて書面で明示することになっています。これに違反すると罰金ですから注意が必要です。実際に罰金を支払うよう命ぜられた所はほとんどありませんが、書面で労働条件を明示することは今後ますます重要になってきます。
 しかも、2008年の4月から施行される「パート労働法」では、労働基準法で定められた項目に加えて、「①昇給の有無、②退職手当の有無、③賞与の有無」の3つについて、文書(労働条件通知書)で明示することが義務付けられました。これを怠ると、罰金よりは軽いですが10万円以下の過料に処せられます。


 その「パート労働法」というのはなんですか。

A
 パート労働者の公正な待遇の実現を目指すという名目で、①労働条件の文書交付・説明義務、②均衡のとれた待遇の確保の促進(働き・貢献に見合った公正な待遇の決定ルールの整備)、③通常の労働者への転換の推進、④苦情処理・紛争解決援助、⑤事業主等支援援助の整備を内容としたものです。


 どこの診療所でもそのような細かいことをやってはいないでしょう……。

A
 ですが最低、労働条件通知書は渡しておく必要があります。先ほどのお話でも、この労働条件通知書(先述の保団連冊子に見本があります)に昇給の有無を明示しておけばよいのです。パートの人と最初にトラブルが起きるのは第1回の給料を支払うときです。「こんなに少ないのですか」といった苦情がよく出ます。そのとき、労働条件通知書を見せながら理由を説明すれば納得してくれます。


「均衡のとれた待遇の確保の促進」ということはどのようなことですか。

A
「同一労働・同一賃金」を主張する人もいれば、「そんな原則はない、賃金は自由な契約によって決まる」という人もいます。しかし、同じ正看護師でも、例えばパートの場合時給1,500円、正規職員の正看護師の賞与も含めた年間の報酬が500万円でしたらどうでしょうか。しかも社会保険料の事業主負担が給料の約12%です。先生の診療所の年間の労働時間はだいたい2,000時間。そうすると500万円×1.12÷2,000時間=2,800円/時、つまり年間収入が500万円の人の社会保険料負担も含めた実際の時給は2,800円になってしまいます。


 私の診療所のパートにはもう少し払っていますが、確かに格差はありますね。しかし、パートにはそんなに支払うことができませんが、これは強制ですか。

A
 通常の労働者と同視すべきパートに対する差別的取り扱いは禁止されています。ただ、労働者の立場からすると問題なのですが、「通常の労働者と同視すべき」パートの条件がかなり厳しくなっています。①職務の内容や責任、②人材活用の仕組み、③契約期間が同じとなっています。実際はこのようなパートは全体の4~5%くらいといわれています。


 私の診療所もそのようなパートはいないからひと安心だ。

A
 均等待遇の要求は今後強くなってきます。医療費抑制政策の中で大変だとは思いますが、パートの労働条件改善に継続的に努力してください。

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