奈良県保険医協会

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事実上の「現物給付」保険商品の容認方針の撤回求め、金融担当大臣へ要請書を送付:奈良県保険医協会

 奈良県保険医協会は5月21日、麻生太郎・金融担当相(金融庁所管)に対して、下記の要請文書を送りました。

2013年5月21日
内閣府特命担当大臣(金融)
麻生 太郎 殿
奈良県保険医協会
理事長 坪井裕志

事業者への直接支払いによる、事実上の「現物給付」保険商品
その容認方針の撤回を求めます

 金融庁は、金融審議会のワーキンググループでの検討を通じて、保険業において保険金(金銭)の代わりに、物品やサービスの提供をおこなう方式(現物給付)に近いしくみの保険商品を認めようとしている。

 現在、法令上、物品やサービスを提供する「現物給付」の保険商品は原則として禁止されているが、それをかいくぐるような、保険契約者にサービスを提供する提携事業者に対して保険会社が保険金を直接支払うことで、被保険者に対して事実上のサービスの給付(現物給付)がおこなわれる方式の保険商品が想定されている。つまり、現金給付の保険商品ではあるが、保険契約者には実際にはサービスの現物が給付されるものと言える。
 対象となるサービスは、老人ホームの入居権などの介護サービスや葬儀サービスなどが当面は想定されているようだが、医療や保育などあらゆるサービスが考えられるという。

 医療において、このような保険商品が容認され、販売されるとどうなるか。

(1)公的医療保険の給付範囲拡大を妨げ、狭めるおそれ
 国民皆保険のもと、我が国では社会保障として公的医療保険が、必要な医療給付のほとんどを包括し、現物給付(「療養の給付」)としている。ところが、一部に保険への導入がおこなわれていない新薬や医療技術などがあり、その治療を受ける場合、その一連の診療は公的医療保険が適用されず自由診療となるために、高額の負担を伴う。こうした部分が新たな保険商品の対象となることが考えられる。つまり、民間保険は、公的医療保険の適用範囲外を補完することがその役割となり、給付外部分の存在が保険商品のニーズに強く結びつく。
 民間保険のニーズは、公的医療保険の給付範囲が狭いほど高まることとなり、民間保険の普及は、財政事情などから公的医療保険の給付範囲を抑制したいと考える保険者や国にとって好都合である。
 他方で、民間保険への加入は任意で、加入者には保険料負担が強いられることから、民間保険に加入できる者だけがその恩恵を受けることとなり、低所得の者や健康へのリスクの高い者(民間保険の加入審査で許可されない者)などは受けられる医療が狭まっていくことになりかねない。

(2)対象医療機関が限定される
 民間保険の医療給付を受けるためには、保険加入者は保険会社と提携した医療機関で治療を受けることが求められる。公的医療保険と違って、医療を受ける機会が限定されることとなる。
 さらに、公的医療保険では現在、原則として受診の都度、窓口一部負担を要する。その負担金は高い者では医療費の3割にも及び、受診の妨げになっている。この、公的医療保険の窓口負担相当分を給付する民間保険商品が、提携事業者への直接払い方式を採用することも考えられる。このような保険商品の契約者は、公的医療保険での医療給付を受ける場合であっても、窓口一部負担について提携した医療機関を選択することが求められる。

(3)医療内容が保険会社によって管理される=制限診療のおそれ
 加えて、医療機関や医療者から見れば、公的医療保険の適用外であって民間保険が給付範囲とする医療をおこなうためには、それぞれの保険会社との何らかの契約が必要となり、保険給付の内容や範囲がそれら保険会社との契約によって縛られることとなる。保険会社との契約の範囲での治療という制限を受けて、必要な医療の提供がおぼつかなくなる危惧が大きい。それは、すでに米国で問題となったマネジドケア(管理型医療保険)の姿であり、これが日本に登場することになる。

 つまり、現物給付の医療保険商品が容認されると、国民皆保険制度のもとで社会保障として国民に提供されてきた医療制度が大きく変質していくことにつながる。ただちに現物給付そのものの保険商品を認可するものでなくても、それに通じる提携事業者への直接支払いによって実現される擬似的な現物給付であっても、その影響は小さくない。

 私たちは、このように日本の医療保険制度を大きく歪めることにつながる、現物給付型の民間保険商品の容認には反対する。金融庁にはその方針を撤回するよう強く求める。

以上


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