【第83回】退職金は必ず支給しなければなりませんか(2022年6月)
ここに掲載した記事は、掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。
【第83回】退職金は必ず支給しなければなりませんか
勤続年数10年以上の職員が退職することになりました(2022年6月)
退職金制度を定めるか否かは医院の自由
退職金について、法律上明確な定義づけはありません。使用者に退職金を支払う義務はありません。ただし、
① 退職金の支給が就業規則その他で明白に定められている場合
② 一定の支給基準による退職金支給の慣行が成立している場合
―は、退職金も賃金にあたることになり、支払義務が生じます。重要な労働条件の一つとして保護されるべきものになります。
退職金支給の慣行が成立しているか否かの判断ですが、判例では次のようになっているようです。ケースによって異なりますが、参考にしてください。
① 退職金規定案が作成されているか、一定の基準に従って支給されている場合。
② 多くの退職者に支給した実績がある。
③ 職員が、退職金制度があると思っている。
――などです。
当院ではパートタイム職員にも退職金を支給しようと思っています
パートタイム労働は短時間の勤務ということから多様な働き方があり、雇入れ後に労働条件について疑問が生じトラブルになることも少なくありません。このため、雇入れの際、特に重要な4つの事項(※)について、文書の交付などにより明示することが義務付けられています。
【文書などによる明示事項】
〈労働基準法で義務付けている項目〉
・契約期間、仕事の場所・内容など
〈パートタイム・有期雇用労働法で義務付けている項目〉(※)
・昇給、賞与、退職手当の有無
・相談窓口
Q. 当院では、パートタイム職員に適用する退職金制度はありますが、「勤続3年以上の者に支給する」制度となっています。契約期間が1年の有期契約のパートタイム職員の退職手当の有無の明示はどのようになるのでしょうか。
A. 有期契約のパートタイム職員に適用される退職金制度がある場合であっても、当該契約期間内に支給要件を満たさないため支給されることがない時は、「無」と明示することになります。ただし、労働契約の締結に関して、当該契約期間満了後、「自動的に更新する」または「更新する場合があり得る」など、雇用継続の可能性があるとした場合、契約更新により退職金の支給対象となる可能性があるため、このような契約については、「有(勤続3年以上を支給対象とする)」と明示する方法でも、明示義務を果たすものと言えます。
医院においてよくあるケース―制度があるのかないのかよくわからない
① メモ程度のものを決めているが、職員に見せたことはない。
② その時の経営状況や退職理由で適当に決めている。基準はない。
③ 今回が正職員としてはじめての退職者、退職金を出すとは1回も言っていないが、職員はあると思っている。職員の求人票では、退職金制度ありにしたと思うが定かでない。
―等々、使用者である院長先生も制度があるのかどうか、ある場合でもその支給基準がハッキリしないことが多く、そのことがトラブルをより深刻なものとすることがあります。
退職金制度を設ける場合は
次の事項を就業規則として明確化すべきことが労基法で定められています。
① 退職金制度が適用される労働者の範囲
② 退職手当の決定、計算及び支払いの方法
③ 退職手当の支払いの時期
雇入れの際の文書の交付の厳守、退職金制度の整備がまだの場合は急いでください。
開業医の雇用管理ワンポイント
- 2022年7月14日【第84回】年次有給休暇の年5日の時季指定義務(2022年7月)
- 2022年6月29日【第83回】退職金は必ず支給しなければなりませんか(2022年6月)
- 2022年5月10日【第82回】労働基準法は強行規定です(2022年5月)
- 【第81回】短時間職員から厚生年金保険・健康保険に加入したいとの要望:優秀な看護師の定着・確保のために―労使の合意があれば加入可能(2022年4月)
- 2021年10月14日【第80回】均等均衡待遇の法改正~どんな働き方でも納得できる待遇のルール〈後編〉(2021年7月)
- 2021年7月2日【第79回】均等均衡待遇の法改正~どんな働き方でも納得できる待遇のルール〈中編〉(2021年6月)
- 【第78回】均等均衡待遇の法改正~どんな働き方でも納得できる待遇のルール〈前編〉(2021年5月)
- 【第77回】パワーハラスメント、こんなところに(2021年4月)
- 【第76回】パワーハラスメント対策の法制化(2020年7月)
- 2020年5月7日【第70回】職員定着のために―年次有給休暇の環境整備をすすめましょう
- 【第71回】職員間(正職員と2名のパート職員)のトラブル その原因と対策は
- 【第72回】自然災害と安全配慮義務
- 【第73回】パート職員の年休5日の義務化と取得促進・定着について
- 【第74回】年休の発生要件である全労働日の8割以上出勤、育休復帰職員は?
- 【第75回】時間単位年休は、義務付けられている年5日の年休取得の対象とならない
- 【第61回】兼業(二重就職)の申出は認めなければいけないか
- 【第62回】「悪い噂」を理由として内定を取り消すことはできるか
- 【第63回】年次有給休暇の取得ルール~制限はどの程度可能か
- 【第64回】65歳まで雇用しなければならないか
- 【第65回】パート職員への賞与はどうしたらいいか、支給する必要はあるか
- 【第66回】病欠した場合、皆勤手当を削る以外に基本給は減らせるか、月給制です
- 【第67回】妊娠中の職員から軽易な業務に転換を請求がされたが
- 【第68回】職員の健康診断
- 【第69回】有給休暇年5日取得義務パート職員も対象か
- 【第54回】給与の口座振込手数料は職員の負担にできるか、また振り込み先銀行を指定したいが一方的にできるか
- 【第55回】割増賃金の計算間違っていませんか
- 【第56回】年次有給休暇の分割付与、半日取得後の出勤は
- 【第41回】9月17日の祝日に診療、職員から代わりの休日を請求されているが
- 【第57回】勤務する曜日や勤務時間を変更する場合の留意点は
- 【第42回】賞与の支給額を下げても問題ありませんか
- 【第58回】定着率向上のために休日の設定はどうされていますか
- 【第43回】昇給はしなければならないか
- 【第59回】「休暇の取りやすさ」重視
- 【第44回】大切な院内研修会の日に年休取得を強行
- 【第60回】就業規則は変更できるのですか 同意がなければ変更できませんか
- 【第45回】始末書は強要できるか
- 【第46回】残業手当の定額払はいけないのですか?
- 【第47回】ノーワーク・ノーペイの原則とは
- 【第48回】「年次有給休暇は次年度に繰り越すことはできない」の規則は無効
- 【第49回】採用前の研修を行った場合、賃金の支払いは必要ですか
- 【第50回】タイムカードは何年間保存しなければならないか
- 【第51回】退職する職員から賃金を請求された場合、規定の支払い日に支払えばよいか
- 【第52回】成果主義賃金制度は必要か
- 【第53回】タイムカードでのトラブル防止
- 【第22回】必ず退職金は支給しなければならないか(前半)
- 【第38回】退職後や休日に年休は請求できるか
- 【第23回】必ず退職金は支給しなければならないか(後半)
- 【第39回】試用期間中の雇用管理のあり方
- 【第24回】労働時間とは
- 【第40回】始業時刻より早く出勤するように指示できるか
- 【第25回】労働時間を適切に管理する責務があります
- 【第26回】変形労働時間制と残業手当
- 【第27回】研修会にも時間外手当は必要ですか
- 【第28回】産前産後休業後に復帰した職員の昇給、賞与について
- 【第29回】改築等で一定期間休診するときの休業手当とは
- 【第30回】賞与支給の時期だが
- 【第31回】時間給のパート職員から月給制への変更を申し出られた
- 【第32回】職員の二重就労、辞めさせることは可能か
- 【第33回】期間の定めのない契約を有期労働契約に変更したいが
- 【第34回】個人事業所で職員が5人以上になったときの社会保険適用について
- 【第35回】募集の内容と採用時の労働契約の不一致は許されるか
- 【第36回】昼休みに帰宅して食事をとる職員いるが、途中で事故に遭った場合は
- 【第21回】割増賃金
- 【第37回】採用内定とその取消し
- 【第06回】「頑張ってよかった」と思える賞与支給を
- 【第07回】通勤
- 【第08回】遅刻3回で1日分の賃金をカットできるか
- 【第09回】休憩時間の電話当番を強制できるか
- 【第10回】パートでも雇用保険に加入する義務があるのか
- 【第11回】離職理由を「解雇にしてほしい」と言ってきたが
- 【第12回】年次有給休暇を買上げてもよいか
- 【第13回】年次有給休暇を半日単位で与えられるか
- 【第14回】パートの年次有給休暇
- 【第15回】年次有給休暇①
- 【第16回】年次有給休暇②
- 【第01回】賃金の欠勤カット、一般的な方法は
- 【第17回】休憩時間の長さ
- 【第02回】週3日勤務のパートが1日9時間働いたとき割増賃金は必要か
- 【第18回】健康診断の実施は使用者の履行義務
- 【第3回】使用者には、労働条件の明示義務がありますよ
- 【第19回】賃金の支払い
- 【第4回】週休2日で1日休日労働したときの割増賃金は
- 【第20回】給与の支給日が休日の場合は後日にできるか
- 【第05回】給与計算の過不足と過払いの調整方法
さらに過去の記事を表示