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【第61回】兼業(二重就職)の申出は認めなければいけないか

開業医の雇用管理ワンポイント 社会保険労務士 桂好志郎(桂労務社会保険総合事務所所長)

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【第61回】兼業(二重就職)の申出は認めなければいけないか

 当院は、開院して6年弱です。今回、開院以来雇用継続中の事務職員から、今年の4月から、一番上の長女が私立中学に入学した様でそのこともあってか、先日副業を許可してほしいとの希望の申し出がありました。必ず認めなければいけないでしょうか?次々に副業を希望する職員がでてきても…。

 就業時間以外の時間をどのように使うかは本来職員の自由です。就業時間以外の自由な時間を使って兼業することに対しては使用者の拘束は及ばないのではないかとも考えられます。

 また兼業と言っても様々な形態が考えられます。ある時期の季節労働(農業や漁業)、月1回程度の着付け教室の講師等々。

 法律上、国家公務員については職務専念義務や私企業からの隔離が明文として規定されています。しかし、私企業については二重就職を禁止する法律の明文化はありません。このために多くの会社は就業規則で定めています。

◇兼業禁止規定が必要とされる理由

 ①労務提供義務、②競業避止義務、③秘密保持義務の3つの視点で見ることができます。

 医療機関においては、秘密保持義務は兼業問題以前の問題として、採用時に誓約書の提出を求めること、さらに就業規則等で定め、周知しておくことが求められます。

◇労務提供義務

【就業規則の規定例】

 兼業についての規定例 
「医院の許可なく、正職員は有給、無給を問わず医院以外の職または業務に従事してはならない。」

 禁止でなく、許可、承認が一般的です。また正職員とパート職員を区別して対応します。

【裁判例でも】

 「労働者の自由なる時、自由なる時間の利用を自由性に任せて他と継続雇用関係に入り…労働に服することになると、その疲労度は加速度的に累積し、従業員たる地位において要請される誠実な労務の提供は遂には殆どが不可能となるであろうし、安全衛生上の事故の発生、それに伴う使用者側の損害ならびに各種補償義務負担等の危険性が著しく増大することが予想される」

 必要な休養が取れなくなり本業に支障をきたす場合や医院秩序が乱されるという場合、また医院の対外的な信用、体面が傷付けられる場合は禁止することができると考えます。

◇最大のポイントは兼業することによって、週の労働時間が合計何時間になるか?

 該当する職員の所定労働時間が週40時間の場合、兼業先の週所定労働時間が

○20時間とした場合

  時間外労働が月80時間以上となります。

○30時間とした場合

  時間外労働が月120時間以上となります。

 過重労働、過労死の問題が発生し、院長の責任が問われると思います。

開業医の雇用管理ワンポイント

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