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【第77回】パワーハラスメント、こんなところに(2021年4月)

開業医の雇用管理ワンポイント 社会保険労務士 桂好志郎(桂労務社会保険総合事務所所長)

 ここに掲載した記事は、掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【第77回】パワーハラスメント、こんなところに(2021年4月)

 パワーハラスメント問題に取り組む意義は、これらがもたらす損失の回避だけにとどまらず、一人一人の尊厳や人格が尊重される職場づくりによって、医院の活力につながり、仕事に対する意欲や職場全体の雰囲気つくりにも貢献することです。  医院でよく相談があるケースを見ていきます。

■「過大な要求」

 該当すると考えられる例として「新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する」が示されています。

院 長: 「試用期間なのですぐ解雇できますね。1週間過ぎたがテキパキと動けない」

相談者: 「最初の14日以内(暦日をいい、実労働日数ではない)であれば、労基法第20条で定められている解雇予告手続きをとることなく即時に解雇できますが、14日以内であれば、何の理由もなく使用者の都合で自由に解雇できるということを意味するものではありません。正当な理由が必要です。」「ここで大切なことは、到達してほしい業務水準、勤務態度等について、目標を明確に提示し援助することです。この期間は集中した教育指導期間と言えます。」

 先輩職員の「出来が悪い」との発言を鵜呑みすることなく、事実関係を具体的に把握する必要があります。

■「過小な要求」

 該当すると考えられる例として「気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない」が示されています。
 「先輩から振られる業務はいつも簡単なものばかり、もう少しやりがいのある業務を任せてほしい」と申し出がありました。本人の不満を慎重に検討する必要がありますが、特定の部署、役割を継続した場合、ある意味の領地主義が発生することがあります。その職員しかわからない状態、他の職員に教えようとしない傾向がみられ、日常業務の障害となることがあります。
 これを踏まえ、放置することなく直ちに個別聞き取り、部署での話し合い、提案をおこなってください。

■裁判例から見たハラスメント

 労働者には、年次有給休暇、産前産後休業、育児休業等様々な権利が与えられていますが、こうした労働者の権利の行使を妨害したりする事例が少なからず存在します。

①年休の取得妨害

 上司から「今月末にはリフレッシュ休暇をとる上に、○月〇日まで有給をとるのでは、非常に心象が悪いと思いますが。」「こんなに休んで仕事がまわるなら、会社にとって必要ない人間じゃないのかと、必ず上はそう言うよ。その時、僕は否定しないよ。」などと言われて取得を断念。
 裁判所は上司の行為について、使用者の責任を認め、使用者の労働者に対する損害賠償責任を認定。会社に対しては職場環境整備義務違反に基づき損害賠償の支払いを命じました。

②特定理由以外の年休取得禁止

 年休の取得が認められるのは冠婚葬祭や病欠休暇に限られるという通知、併せて年休残日数が14日ないし18日あったのに一方的にゼロと記載して労働者に交付。
 裁判所は、使用者の行為によって、年休の取得行為が委縮されるとして、使用者の損害賠償責任を認定。労働者が被った精神的苦痛について、使用者が慰謝料を支払うべきであると判断しています。

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