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【第54回】給与の口座振込手数料は職員の負担にできるか、また振り込み先銀行を指定したいが一方的にできるか

開業医の雇用管理ワンポイント 社会保険労務士 桂好志郎(桂労務社会保険総合事務所所長)

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【第54回】給与の口座振込手数料は職員の負担にできるか、また振り込み先銀行を指定したいが一方的にできるか

 給与は現金で直接手渡してきましたが、今後は銀行振り込みに変更したいと思います。その場合、振込みの手数料がかかりますが、使用者または職員のどちらが負担するのが一般的でしょうか。手数料を職員に負担させることが可能な場合、その分を給与から控除しても構わないでしょうか。

 また当院が負担する場合、手数料に係る経費が無視できないので、振込先銀行を指定したいができますか。

 賃金は労働者の生活の糧であり、労働の対価が完全かつ確実に労働者本人の手に渡るように、労基法は賃金の支払いについて、①通貨払、②直接払、③全額払、④毎月最低1回払、⑤一定期日払―の五原則を定めています。

◇職員の同意が必要です

 賃金は、原則として通貨で、直接職員に支払わなければなりませんが、賃金の口座振込みによる支払については、職員の同意を得て当該職員の指定する本人の預貯金口座または証券総合口座に振り込むことができるとされています。

実施要件は

  1. 本人の同意。
  2. 本人名義の口座、本人の希望であっても別人や架空の名義に振り込んだりするのは違法です。
  3. 支払うべき賃金の全額が、所定の賃金支払日に払い出し得る状況、賃金支払日の午前十時頃までに払出し可能なように実施することが必要です。

 また労使のどちらが負担すべきかについては労働関係の法令や通達に特に定められていません。

 民法によれば「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする」(第485条)とされています。したがって、債務者が手数料を負担することが一般原則といえます。

◇振り込み先の銀行の指定は職員の同意を得ておこなわなければなりません

 職員の同意を得て当該職員の指定する金融機関の本人名義の預金・貯金口座等に振り込むことが認められています。

 したがって、賃金の振り込み先の金融機関を指定すること自体は可能といえますが、賃金の口座振り込みは「職員の指定する」銀行口座などに振り込むことが、この方法を採用する前提条件となっていますから、職員一人ひとりの個別同意が必要となります。

◇採用時の提出書類を求めるときに忘れないようにしましょう

 職員を雇入れる場合、求人、面接、採用内定と採用日の確認と続きますが、採用内定した後に、必ず採用日までに労働条件の書面による明示(雇用契約)を行うことが、使用者の義務です。同時に欠かせないことが、「住民票記載事項の証明書」「扶養控除等申告書」「緊急時連絡先届」等の採用時の関係書類を求める時に給与の振り込み方法について説明し、同意を得るようにしましょう(本人名義の指定口座の確認)。残念ですが、採用後すぐに退職されるケースがときどきあります。その時の給与の支払で困ったことにならないために心がけるようにしましょう。

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