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【第43回】昇給はしなければならないか

開業医の雇用管理ワンポイント 社会保険労務士 桂好志郎(桂労務社会保険総合事務所所長)

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【第43回】昇給はしなければならないか


  開業して5年目です。職員の貢献に報い、次の1年の頑張りを促すために、この間毎年3千~5千円昇給してきましたが、今年は出来そうにありません。

  職員から「昇給しないのは約束違反」と言われないか心配です。

  小規模事業場である医院で参考になる就業規則等の記載例があれば紹介してくれませんか。

◇就業規則でどう定めているかが問題

  就業規則の絶対的必要記載事項(記載しないと法違反になる事項)として、「賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」が決められています。

  「昇給」に関しては、「昇給の期間、昇給率その他昇給の条件等をいう」と解説されています。そのため、正職員の就業規則では、「昇給は、毎年1回、○月○日をもって行う」などと規定しているケースが多いようです。

  問題は昇給が不可能な状況になったときに、「就業規則に基づき、昇給しなければ、約束違反」と職員が権利を主張できるかどうかですが、裁判(高見澤電機製作所事件、長野地裁上田市判平16・2・27)では、「会社の就業規則には『昇給は年1度、3月21日定期とする』という定めがあるものの、定期昇給の具体的昇給基準が定められていない以上、法的に定期昇給実施義務が発生すると評価することはできない」と判示しています。

  いくら昇給させるか使用者が金額を決定しない限り請求権は生じないという考え方です。「定期昇給させることがある」と定めるにすぎない場合には努力規定にとどまり抽象的な義務にもならないと言えます。

  「毎年8月1日に1号俸昇給させる」といったアップ金額や昇給率等の基準を設定している場合は義務を負っていることになります。

◇履行義務は文言次第、具体性の有無が大切

  就業規則上の昇給規定はどうなっていますか。医院の実態や院長先生の考え方と一致する規定になっていますか。

  小規模医院で一般的に使用されている規定を紹介します。「医院の業績及び職員の勤務成績を勘案し、各職員ごとに毎年○月○日に行うものとする。ただし、経営上やむを得ない事由がある場合には、昇給の時期を延伸し、または昇給を行わないことがある。」

◇パート労働法改正にも注意

  労働基準法では、パートタイム職員も含めて、職員を雇い入れる際には、労働条件を明示することを使用者に義務付けています。「契約期間」「賃金」等は文書で明示することが義務付けられています。

  さらに上記に加えて、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」を文書の交付等により明示しなければならないと改正が行われています。

  昇給制度「有り」とした場合の記載内容に注意してください。

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