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【第05回】給与計算の過不足と過払いの調整方法

開業医の雇用管理ワンポイント 社会保険労務士 桂好志郎(桂労務社会保険総合事務所所長)

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【第5回】給与計算の過不足と過払いの調整方法

◇計算ミスの不足額は次回の給料で清算してもよいか? 

 給与計算は毎月発生します。忙しい時期と重なるとついうっかりミスすることがあります。そのときにこの不足額を次回の給料で清算してもいいかということですが、労基法は、賃金が毎月確実に職員本人の手に渡るように、賃金の支払いに関する原則を定めており、そのひとつに全額払いの原則があります。全額払いの原則とは、職員が受け取るべき賃金については、その全額を支払わなければならないことになっています。(例外は表参照)

 したがって、医院の計算ミスにより発生した不足額の清算は、次回の給料でするのでなく、直ちに支払う必要があります。

賃金の一部を控除して支払うことができる場合
①法令に別段の定めがある場合 税金、社会保険料等
②労使協定がある場合(監督署への届出不要)旅行積立金、互助会費等

◇手違いで家族手当を支給していたが、返還させることは可能か? 

 手違い、勘違いで手当等を支給していて過払いになっていたことに気づくことがあります。この場合に、職員に請求できるかどうかですが、正当な理由がなく利益を受けることを「不当利益」といいますが、民法では、このような不当利益を受けた者に対して返還する義務を負うことを規定しています。当然ですが、医院から請求があった場合はその職員は支払う義務があります。 

 労基法でも「過払いとなった前月分賃金を当月分の賃金で清算する程度は、賃金それ自体の計算に関するものであるから、違反にならない」としています。 

 また最高裁判決は、かかる賃金控除が認められる具体的条件として

①相殺(カット)は、過払いのあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に密着した時期においてなされること。

②あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合であること。の2つを示しています。 

 支払った側の過失の程度や返済方法について考慮し、よく話し合って、無理のない額で、無理のない返済方法を考えることになります。

◇退職した場合はすぐに給料を支払う必要があるのか? 

 使用者は、退職者から請求があった場合、本人の権利に属する賃金その他の金品を7日以内に支払い、返還しなければならないことになっています。あくまでも請求があった場合ですが、支払日の到来前であっても、請求のあった日から7日以内に支払うことを要します。退職手当については、就業規則等で定められている支払い時期までに支払えば足りるものとされています。

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