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【第72回】自然災害と安全配慮義務

開業医の雇用管理ワンポイント 社会保険労務士 桂好志郎(桂労務社会保険総合事務所所長)

 ここに掲載した記事は、掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【第72回】自然災害と安全配慮義務

台風や大雨などの際に、職員にどのように出勤指示したらよいか。「どうしても定時に出勤しろ」と命令することは、反発も買うし、事故に遭ったら大変なので無理。先日は、大雨の時に「無理のない範囲で。でも11時頃までには出てきてほしい」と伝えたら、定時の9時に出勤した職員もいたが11時に出勤した職員もいて、「不公平」との苦情も出た。このような場合にはどう対応したらよいか。また、給与についてはどう対応したらよいか。

◆労働者の安全への配慮

 「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」(労働契約法第5条)、これは労働契約に特段の根拠規定がなくとも、労働契約上の付随的義務として当然に安全配慮義務を負うことを規定したものです。さらに判例上も「労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っているものと解するのが相当である。」(川義事件 昭和59年4月10日 最高裁第3小法廷判決 宿直勤務中の従業員が盗賊に殺害された事例で、会社に安全配慮義務の違背に基づく損害賠償責任があるとされた)ものとされました。

◆自然災害との関係

 職員が被災する可能性のある危険な緊急対応を命ずる場合も、平時と同様、使用者が安全配慮義務を尽くしたか、すなわち、危険予知や被害想定に基づいて適切な事故防止対策を講じたかが、安全配慮義務違反の有無を判断する上で重要なポイントです。

◆東日本大震災関連の裁判例から

 東日本大震災における津波の犠牲者の遺族が管理者に対し「安全配慮を怠った」として相次いで訴えを提起しており、昨今これらの訴訟の判決が順次下されています。これまでの裁判所の判断は割れています。裁判所は個別の事例ごとに、現場の位置や津波の危険性をどのタイミングで具体的に認識できたかなどを判断していますが、「想定外」の災害で管理者の責任を問うことの難しさが表れています。

◆帰宅指示するときは

 最新の行政データ等の科学的知見をもった危険予知や防災マニュアルを備えること、適切な経路の設定など、職員への周知、事前対策を講じておくことが必要です。

◆賃金の支払いは

 労基法は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合において、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当(休業手当)を支払わなければならない。」と規定しています。「使用者の責に帰すべき事由による休業」とは、使用者として休業になることを避けるために、最善の努力をしたかどうかによって判断されることになります。
 天災事変など不可抗力の休業であれば、使用者の責に帰す休業にあたりませんので、休業手当の支払いは不要といえます。
 使用者が「無理のない範囲で」と伝えているので、「『不公平』との苦情も出た」とありますが、使用者としての安全配慮義務を理解してもらうようにしてください。

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