奈良県保険医協会

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TPPで潰される日本の国民皆保険制度

 独立国には、貿易では輸入数量と価格水準を他国の干渉を受けずに決定できる「関税自主権」という権利がある。戦後は米国をはじめとする先進国は後進国の「関税自主権」を無視して自国に有利なルールを作ろうとしてガット、WTOを進めたが、先進国のルールを押し付ける試みは停滞して、2国間・地域でFTAを締結する流れとなった。

米国の事情
 2008年のリーマンショックで米国は深刻な経済危機に陥り、経済再建の一環として輸出倍増計画を打ち出した。おりしも経済発展が著しい中国やASEAN諸国が米国を排除した経済協力体制を作る動きがあり、米国はそれに対抗するため、わずか4カ国で結ばれた極端なFTAである環太平洋戦略的経済連携協定に相乗りした。その後日本を引き入れて、TPPとして米国はアジアでの権益を確保しようと焦っている。

日本がTPPに引き込まれる訳
 21世紀に入り国境を越えて経済活動をするようになった多国籍大企業は自社の利益だけが目的なので、販売する商品に国ごとに余計な規制をかけられては困る。したがって米国だけでなく日本、ドイツなどの先進国の輸出型企業は輸入国の規制をくぐって強引に利益を上げた。

米国がTPPを使って輸出するものは?
 TPPでは輸入国に大量の安価な外国商品が流入し、もともとそれを作っていた国内産業は衰退する。その外国商品には農産物、工業製品だけでなく知的サービスである通信、IT、金融、流通と医薬品・医療機器が含まれている。物品の「関税」に相当するのが知的サービスでは「非関税障壁」で、その規制や制度を撤廃するのが「構造改革」であり、米国は最も競争力のある知的サービスを売り込みたい。大半が民間保険である米国と異なり日本の皆保険は国民を守るため様々な制約を持っている。米国企業にとってマーケットは大きい反面、市場価格の青天井とはならない場合も多い。

米国の戦略とは
 米国の狙いの第1段階は薬である。日本では薬価を決めているのは中央社会保険医療協議会(中医協)だが、そこに圧力を懸けて、新薬の高薬価を維持するために新薬の特許期間を延長させ、さらに新薬のデータ保護期間を延長させジェネリック薬を妨害する。
 第2段階は混合診療で、医療特区に限定した株式会社による医療機関を認めさせ、富裕層を狙った先端医療を展開し、同時に民間医療保険を充実する。
 第3段階は全国レベルで株式会社による医療機関の自由診療を認めさせ、民間医療保険のシェアを拡大することである。

今後の日本
 本来互恵的であるはずの貿易のルールを無視して他国の被害を顧みることなくTPPを進めている。このまま国民皆保険制度が崩壊すれば、皆さんは保険医として医療を続けることができなくなる日が将来くるかも知れません。韓国ならびに豪州がそれぞれの米国とのFTAで医療破壊が進んだことを他山の石として、日本の医療人はTPPを批准させず、日本の社会保障を守ろうではありませんか。

【奈良保険医新聞第403号(2016年4月15日発行)より】


主張

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