奈良県保険医協会

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「憲法改正」は必要なのか

憲法の始まり
 イギリス国王の権利を制限した「マグナ・カルタ」に始まる憲法を作る運動は「アメリカ独立宣言」、「フランス人権宣言」等の市民革命の中で、時の権力者の横暴を抑制する立憲主義(国民主権、権力分立、基本的人権)を作り近代憲法が確立した。

近代憲法の変遷
 20世紀の資本主義経済の発達による貧富の差の拡大に対応して、近代憲法は3方向に、第一は、経済的弱者の権利を保障する社会権に重きをおいて福祉国家を目指す方向、「ワイマール憲法」、第二は、立憲主義を捨てて君主国王が主権者となる方向、「プロイセン帝国憲法」、第三は、労働者・農民などの被支配者が主権者となる方向、「ソ連憲法」に分かれた。

明治政府と敗戦国日本の憲法
 幕末から明治維新にかけての世界列強の植民地収奪攻勢に対して明治新政府は、乏しい国力をいち早く嵩上げするため君主主権・権力集中を内容とする明治憲法を制定し、自らを西欧列強と同質の侵略国にした。
 天皇と軍部に権力を集中させた日本は敗戦という大きな代償を受けた。勝者アメリカの意向を受けてできた新しい憲法は「立憲主義」が基本となり、主権者となった国民の基本的人権は大幅に拡大され「自由」を回復し、無駄な軍事費を免責されて経済活動に邁進した結果、GNP第2位の経済大国になった。明治政府の方針ではなしえなかった成果だった。

経済から見た改憲論
 現在の世界では、GNP第1位のアメリカは衰退傾向、中国は経済発展を遂げて第2位となり、日本は人口減と相まって第3位に後退した。日本には、経済的安定を願うならば選択は二方向あると考えられる。第一は、アメリカの望む経済方針に従う方向、第二はアメリカに限定することなく世界の経済の動きに合わせる方向である。
 第一の選択は、アメリカが中国と経済的軍事的に対抗するために日本はアメリカの主導するTPPに入って、さらに軍事的援助を要請される。そのためには日本国憲法の三原則(国民主権、基本的人権、平和主義)を崩さなくてはならない。第二の選択ではアメリカをはじめ中国、ロシア、EUなどの世界各国と平和な友好関係を築くために、軍事費を大幅にカットして平和主義を貫かなくてはならない。それは現憲法で十分可能である。

改憲論議のゆくえは?
 安倍晋三首相は参院選後、改憲実現へ自民党憲法草案をベースにした議論へ期待を述べた。
 人を一人ひとりの個人として尊重する(基本的人権)のは当然だが、憲法はそれゆえ国家権力による人権の侵害を抑制する縛りを設けている。
 ところが、自民党草案では「公益」や「公の秩序」を人権より重視する。国民に課す義務を随所に盛り込み、国家権力ではなく国民を縛るものに様変わりし、統治者にとっては都合が良い。つまり、立憲主義(国家権力を規制し、統治のあり方を憲法で定める考え)を根底から覆す内容を含んでいる。
 すでに集団的自衛権を前提とした法整備、従来の平和主義や国民主権をふみにじる動き(安保法制、武器輸出三原則の廃止、特定秘密保護法、通信傍受(盗聴)拡大…)が強まるなか、それにお墨付きを与える改憲でよいのか。
 他方、反発の少なそうな論点に絞り、改憲を国民が体験する「お試し改憲」という話も報じられる。自民党草案にも含まれる「緊急事態」条項の創設がその一つである。
 参院選後、改憲に前向きな立場の議員が衆参で3分の2を占め、様々な立場から改憲論議が活発化するだろう。「憲法改正」は必要なのか、その中身をしっかりと見届けなくてはならない。

【奈良保険医新聞第408号(2016年9月15日発行)より】

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