奈良県保険医協会

メニュー

マイナンバーカードによる保険証確認の義務化に抗議する

 岸田首相は6月7日経済財政運営の基本方針であるいわゆる「骨太方針2022」を閣議決定した。防衛費の5年以内の抜本的な強化を謳い、社会保障費の抑制路線が際立つ内容である。特にマイナンバーカードの普及方針を明記し、23年4月からマイナンバーカードによる保険証確認システム導入を原則義務付け、24年度中をめどに保険者による保険証発行の選択制の導入をすすめ、更には「保険証の原則廃止を目指す」と明記するなどマイナンバーカード普及へなりふり構わない姿勢を示した。

 当初政府は23年3月末までに全医療機関・薬局でのオンライン資格確認システム導入を掲げていたが、普及は進まず現時点での運用開始施設は20%にも満たない状況である。院内でのマイナンバーカードの紛失の懸念や窓口での混乱、サイバー攻撃の危険性など医療現場が導入に消極的になるのは当然である。つい最近も徳島の病院がランサムウェアによるサイバー攻撃を受けたことが記憶に新しい。

 ところがそういった現場の実感を無視し、保険証の原則廃止を目指すなど強引にマイナンバーカードによる資格確認、マイナンバーカードの普及をトップダウンで進めようとしている。今般の保険点数改定でもオンライン資格確認システムで患者の薬剤情報又は特定健診情報等を取得した場合の初・再診料加算など政策誘導的な点数改定が行われたが、評判の悪さで早速再考の声が上がっている。まさに朝令暮改とも言えるお粗末な施策で、それに振り回される我々医療側はたまったものではない。

 マイナンバーカードに内蔵する電子証明書の更新期間が5年、カード自体の更新も10年であることも指摘しておきたい。5年に一度役所で電子証明書の更新を受け、10年毎にカード自体の更新を受ける必要があるのだ。カード更新には10日前後必要だとも言われ、その間保険証確認が受けられないことも予想される。そのような不便を強いてまで国民、医療機関に何のメリットがあると言うのだろう。まさに国家のためのマイナンバーカードであることが明白である。

 国はマイナンバーカードの取得は義務ではなく任意であると説明してきたが、保険証の廃止となればマイナンバーカードの取得は実質的に義務となる。しかも常時所持、利用を余儀なくされる。当然紛失の恐れや個人情報の漏洩のリスクは保険証の比ではない。このようなリスクを知らせずマイナポイント付与などで取得を誘うなど国民を愚弄した所業である。

 我々は医療人として患者の医療情報の管理、保護に努めている。その医療倫理を侵す恐れのあるオンライン資格確認の原則義務化に対し断固抗議し、その方針案の撤回を求める。

【奈良保険医新聞第478号(2022年7月15日発行)より】

主張

さらに過去の記事を表示