奈良県保険医協会

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「アベノミクス」と「社会保障」の行方

 2013年12月に発足した安倍政権は「アベノミクス」という経済政策、三本の矢(金融緩和、財政出動、構造改革)を強引に進めた。
 「金融緩和」により2年間で150兆円のお札を刷り200兆円の借金(国債) をして「円安」にすることで、「トヨタ」などの輸出大企業は販売量が増えてはいないのにその差益だけで利益を上げ、大多数の中小企業は輸入資源の価格 が上がり業績は悪化した。
 「財政出動」により公共投資を増やしたが、これ以上道路を作る訳にいかず、東京オリンピックの競技場を水増し、必要もないリニア(土管)新幹線を推し進めるしかない。過剰投資となった損失を埋めるために労働者の賃金は下げられた。「構造改革」では大企業を優遇して人件費を下げるために非正規雇用をすすめ、法人税(10兆円)を減税し、それを消費税(17兆円)で補った。
 医療の分野では社会保障にかける国の負担を減らすために、必要な病院の入院ベッド数を減らす計画を立て(10年後に必要とされる152万床を115万床に削減)、介護保険、生活保護を受けにくくしようとしている。同様に日本の国民皆保険制度を解体し、営利企業を医療に参加させようとしている。TPPで日本進出を最も望んでいるのは実は外資系の医療株式会社である。
 なぜこの政策は庶民に犠牲を強いるのか。その答えは、資本主義の歴史にある。近代資本主義の基本原理は、辺境の未開発国の資源を安く仕入れて、中心先進国の先端技術で付加価値を付けた商品にして、それを世界中に売り利潤を得ることだ。
 1970年代、ベトナム戦争、オイルショック、ニクソンショックが起きて、日本の高度成長は昭和48(1973)年に終わった。現在は後発国だったブラジル、ロシア、インド、中国が先進国になろうと過剰生産することで、商品が溢れ、原材料費が高騰して、先進国は利益が上がらなくなってきた。
 また資本主義は生産を上げるために大量のエネルギーを必要とするが低コストだった石油が高騰したため、それに代わる原子力発電を推進したが福島原発事故により頓挫した。
 そこでアメリカの巨大資本家は新たな市場を作るため2000年以降、コンピューターで自由に世界中の資本を瞬時に動かせるシステムを作り、自らの株価を無理に押し上げる「金融ゲーム」を始めた。しかしデジタルの数字だけのマネーゲームはリーマンショックのように繰り返し破綻し、その度に多くの中小企業は倒産しリストラで大量の貧困層を作った。
 現在、世界中の良識のある政府はその改善を模索している。しかし「アベノミクス」は相変わらずの旧態依然とした庶民を犠牲にする資本家、大企業、富裕層のための政策である。
 日本の保険医が断固反対していかなければならないのは自明の理である。

【奈良保険医新聞第396号(2015年9月15日発行)より】


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