奈良県保険医協会

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押し寄せる波――「地域包括ケア」に開業医として、どう立ち向かうのか

 団塊の世代が後期高齢者になる2025年に向けて、地域包括ケアシステムの整備という文言が厚生労働省からさかんに強調されている。地域包括ケアとは、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるシステムのことを指す。要介護状態になっても30分以内にすべてが完結する日常生活圏域ごとに整備することが目標とされている。
 厚労省の描く理念は、今回の診療報酬改定でも少しずつ姿を現している。今回新たに導入された「地域包括診療料」及び「地域包括診療加算」は、人頭払い、登録医制度の足がかりになるとも見ることができる。複数の慢性疾患を抱えている患者が対象で、原則として一人の患者に対し一医療機関しか算定できない。算定条件が厳しく、24時間対応、常勤医師3人以上、在宅療養支援診療所であることなどのハードルもある。年齢制限がなく、包括される範囲が広がっているところが2010年に廃止された後期高齢者診療料と異なる点である。地域医療で開業医が果たしている役割を無視した一方的な政策誘導が狙われている。
 現在は地域包括支援センターが中心となり、市町村ごとに地域ケア会議等を開催している場合が多い。奈良県も、今年度から地域包括ケア推進室を作り、取り組みをすすめようとしている。医療・介護の現場も行政も努力はしているが、活用できる資源が乏しければ、地域のボランティアや家族介護に頼らざるを得ない。医療介護総合法が制定されてしまったが、介護保険で一定所得以上は自己負担が2割になり要支援はサービス対象から除外されるようになれば、地域包括ケアは絵に描いた餅になるであろう。
 国民の求める「地域包括ケア」を実現する道のりで地域医療の現場責任者の開業医の果たす役割は重要である。超高齢化した独居・老人世帯の医療要求を的確に掴み取ることが重要である。高齢者が地域で最期まで生活し、生きるための不安を分かち合い、応援し、寄り添えるかかりつけ医の存在が求められている。
 開業医宣言の第一に謳われた全人的医療「私たちは個々の疾患を重視するのみならず、患者の心身の状態、家族、生活環境にも気を配り、全人的医療に努力する」。時代を支えた高齢者が地域で生ききることに希望が持てるよう支える「包括的な指揮官」としての開業医の役割が求められている時代である。

【奈良保険医新聞第382号(2014年7月10日発行)より】


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