奈良県保険医協会

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2012年診療報酬改定を終えて―医療費の財源と配分の中身が問題

2012年診療報酬改定を終えて―医療費の財源と配分の中身が問題||| 昨年3月11日の東日本大震災の甚大な被害の中、2012年診療報酬改定は、当会でも見送りの論議があった。しかし、被災地域での医療体制の復興復旧、さらに長年の医療費抑制政策による医療供給体制の弱体化や国民皆保険制度の空洞化の改善・診療報酬の引き上げはまっとうな要求として避けられないものであった。
 結果は、薬価・材料価格(▲5500億)1.375%引き下げを財源に、診療報酬本体を1.379%引き上げ(+5500億)で総枠改定率は+0.004%。別枠の長期収載医薬品の引き下げ(▲250億)が行われ「新薬創出加算」の原資にされた。医療経済実態調査ではこの10年間で医科診療所の損益差額が28%低下している。その一方で様々な優遇策で製薬企業は驚くべき高収益性を保証され、医療費の10年間の増加は薬剤費が原因になっている。医療保険財源のあり方について医療提供サイドの根本分析も迫られている。診療所、中小病院の評価なくして地域医療の崩壊は食い止められない。再診料の評価の確保こそ求められている。
 今改定には社会保障と税の一体改革の先取りが公然と組み込まれている。平均在院日数のさらなる削減、入院から在宅へ、医療から介護への流れが露骨なほど押し込まれている。入院患者を速やかに在宅に送るための機能や連携強化の点数が数多く設定された。機能を強化した在宅療養支援診療所・支援病院が新設された。訪問看護の24時間の高評価と連動し、医師に在宅看取りを促進させようとするあからさまな誘導だ。強化型をとれない一人医師支援診や支援診以外の診療所が在宅医療の現場のほとんどを支えている。在宅医療から撤退する診療所が増えかねない。超高齢化社会の中で独居、老人世帯の比率が進む中、所得再分配として社会保障、在宅医療・介護が求められている。
 従来から行われていた保険者による突合・縦覧点検が電子レセプト請求の医療機関について支払基金・奈良県では国保連合会でも開始された。病院・診療所のレセプトと調剤レセプトの突合は算定ルールが厳密に点検され、医薬品の適応症、投与量、傷病名と医薬品の禁忌、医薬品の併用禁忌など医療整備や医療安全につながる側面もあるが、目的が医療費削減のための減点や個別指導の理由項目につながるなど問題点が多い。医師の裁量権侵害になる機械的な減点、返戻には協会としての対応が必要となってくる。
 社会保障と税の一体改革の推進でなく、診療報酬引き上げと患者負担軽減は医療担当者と患者・国民の願いであり、共通した運動になる。社会保障の財源は大企業の負担増と高額所得者の応分の負担による所得再分配が原則であることを訴えていきたい。政府に国の主権者たる国民の命を守る憲法25条の生存権遵守を求める。

【奈良保険医新聞第359号(2012年6月10日発行)より】


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