奈良県保険医協会

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防衛費の倍増・強化―自衛隊の質的・量的増強を危惧する

 防衛省の2023年度予算概算要求額は、過去最大の5兆5947億円となった。防衛力強化に向けて金額を示さない「事項要求」が大半を占め、最終的な予算額は6兆5000億を超えるとも言われている。政府は「骨太の方針」で、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の防衛予算がGDPの2%以上を目指していることを例示した上で、相手のミサイル発射拠点をたたく「先制攻撃能力」の保有を検討する国家安全保障戦略などの改定作業を調整すると言及した。

 「日本を攻撃したら、反撃される」と相手に認識させることができれば、抑止効果は高まると言う。果たしてそうだろうか。安倍政権の下で策定された安保法制の下、今や日本は9条を擁く平和国家ではなく、アメリカの戦略下にあるアジアの軍事同盟国となった。その日本が更なる軍事費を積み増し、今以上の軍事大国化することが安全保障という観点からみて妥当な政策と言えるのだろうか。冷戦下におけるとめどなき軍事力増強の愚を繰り返してはいけない。ロシアによるウクライナ侵攻、という暴挙の下、国民が漠然と感じている戦争への恐怖、隣国への不信に乗じた岸田政権の誤った政策転換と言える。

 さらに言えば膨張する予算をどう算段するのか。社会保障予算の削減などは今以上に進めるのだろうが、既存政策の見直しだけでまかなうのは不可能だ。実行するなら基幹税の増税となろう。しかし基幹税の増税は、政治的に困難な選択だろう。だが「増税してでも防衛費を強化すべきか」を国民に問わずして、この政策転換を進めることは許されない。ところが政府、自民党はその財源論は後回しで十分な議論のないまま、拙速な防衛費増大に突き進んでいる。

 財源をめぐっては国債増発を認めるような発言が政府内からも上がった。国債頼みの道を開けば、今すでにある一千兆を超す国債残高を更に恒常的に増やし、財政規律を放棄したと言わざるを得ない。しかも膨大な軍事費は何ら生産性を持たず、次の世代に対する負の遺産でしかない。

 今1998年以来の円安に見舞われ、輸入材料、エネルギー代の上昇による物価高や企業業績の悪化等が多くの国民を苦しめているが、その原因として日本と欧米との金利差の拡大が挙げられる。ところが日銀はアベノミクスによる金融緩和策を継続するとの方針を変えていない。政府の持つ一千兆円を超える国債債務が足かせになっている。アベノミクスの失敗のしりぬぐいを日銀は取ろうとしない。公定歩合を1%上げるだけで、政府は年間10兆円の財務負担になり、金融政策変更が出来ないという。

 国を守るとは、国民の安全・安心を守ることに他ならない。戦争が起これば、日々の平穏な日常が失われ、命が犠牲となることは、ウクライナからの映像を見るたびに思う。世界から尊敬される国になることはもちろん、戦争を起こさないための内政、バランスの取れた外交が何よりも求められる。軍事増強によって国を守れることは決してない。

【奈良保険医新聞第481号(2022年10月15日発行)より】

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