奈良県保険医協会

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デジタル改革関連法の危惧―マイナンバーカード普及急ぐ政府

オンライン保険資格確認、本格開始の延期
 厚労省が3月末に本格運用開始を目指していた、マイナンバーカードによる保険資格確認が延期された。先行実施を始めた医療機関でトラブルが相次いで起こった事による。医療機関の導入が5割弱に止まった事も厚労省としては誤算であったのだろう。今後の動向を注視したい。
 防衛省が運営する大規模コロナワクチン接種の予約システムにおいて、不備が判明したり、コロナ患者接触確認アプリ「COCOA」にバグ(不具合)が見つかり、実効性が疑問視されたのも記憶に新しい。共に民間にシステムを丸投げし、その内容を把握できなかった行政側のデジタルリテラシーの欠如が明らかになったと言える。

デジタル関連法の成立
 国会では5月に「デジタル改革関連法」が成立した。新法では首相をトップにしたデジタル庁を司令塔に、各省庁や自治体でばらばらだったシステムや個人情報保護のルールを共通化させていくことを柱にしている。マイナンバーの利用拡大や押印が必要な手続きの削減なども進める。行政サービスの利便性向上に加え、民間企業のデータ利用を促し新ビジネス創出などにつなげていく狙いだという。

個人情報保護の不備
 従前は、国や独立行政法人、民間企業を対象とする法律と、地方自治体による多くの条例が個人情報の保護を担保してきた。新法制定によって個人データを政府が一元管理する。自治体からは住民情報漏洩のリスクが高まる、との指摘が相次ぐ。政府は個人情報保護委員会の監視機能を高めることで、問題がないとの立場だ。しかし行政機関に「相当な理由」があれば個人情報の目的外利用や提供ができる規定は残されたままだ。
 「リクナビ」が就活生の内定辞退率を本人の同意なく企業に販売していた問題のように、本人の知らないところで個人情報がやりとりされ、ビッグデータやAIを利用したプロファイリングによって、個人の人生に大きな影響を与えていることが明らかになった。今求められるのは、情報の自己コントロール権を保障する仕組みだ。それが確立されていない個人情報保護法は欠陥法と言わざるを得ない。

マイナンバーカードによる保険資格確認の狙い
 政府は、国が運営する「マイナポータル」を入口として、行政だけでなく民間サービスも含めた個人情報の連携を進めようとしている。連携にはマイナンバーカードの「カギ」機能が必要となるため、その普及策をなりふり構わず打ち出している。新法では、カード機能のスマホへの搭載を可能とすることや、健康保険証、運転免許証、医師免許などの国家資格とマイナンバーとをひも付ける事も盛り込まれている。マイナンバーは本来、税と社会保障、災害対策の3領域に限定されてきたはずだ。ひも付け先が増えれば、個人情報が流出する危険性も高まる。このような構図の中で実施されようとしているマイナンバーカードによる保険資格確認は、延期ではなく中止を求める。

【奈良保険医新聞第466号(2021年7月15日発行)より】

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