奈良県保険医協会

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コロナ禍における医療崩壊の危機―今こそ社会保障の建て直しを

医療費抑制政策の歴史
 戦後の日本の社会保障は日本国憲法に則った1950年の「社会保障制度に関する勧告」(50年勧告※)に始まり、医療保険制度として国民皆保険(1961年)、老人医療費無料化(1973年)の比較的手厚い社会保障制度が整備された。
 しかし、1970年代末から財界や保守政党などの臨調行革「新自由主義」路線の元、社会保障に対する切り崩しが始まった。1979年に「新経済社会7か年計画」(政府の公的福祉を減らす)、「95年勧告」(社会保障財源を応能負担、社会保険方式に)、2015年に「骨太方針2015」(公共サービスを民営化して、税金からの支出を削減する)等を発表している。その間には老人保健法(1983年)、介護保険法(2000年)により医療と福祉の自己負担化をすすめてきた。

感染症病床や保健所不足が浮き彫りに
 政府は社会保障削減方針のもと、感染症病床を1996年に9716床だったものを現在は1758床に削減した。また保健所の統廃合により、1994年に847箇所あったものが2020年には469箇所と半減させたことも、コロナにおける医療崩壊の大きな原因となっている。全国の医師数は現在約33万人、人口1000人あたり2.5人であり、医師の増加を抑制したためにOECD加盟国の中でも少なく、コロナにより昨年早々に医療崩壊したイタリアの3分の2である。

奈良県でも深刻、第4波  新型コロナ感染拡大の特に第三波以降、重症化を来した患者さんを診察できる感染症専門医やコメディカル、病床数の不足が浮き彫りとなった。奈良県においてもコロナ重症化対応病床はたった32床であり、なかでも人工呼吸器による気管挿管、ECMO(体外式膜型人工肺)の救命治療可能な病床は第3次救急を扱う病院の20床あまりしかなく、第4波のピーク時には重症病床の稼働は90%を超える日もあった。


今こそ国のあり方を見直し、立て直す時
 今回の新型コロナで多くの犠牲者が出ている国々を見れば、社会保障を削減した国ほど被害が大きいことが分かる。コロナ禍で露呈した医療崩壊の危機を乗り越えるためには日本国憲法に則った「50年勧告」に振り戻って日本の社会保障を建て直さなければならない。

※50年勧告…憲法25条の意義を具体化し、国として初めて社会保障の体系づけを行ったもの。

【奈良保険医新聞第465号(2021年6月15日発行)より】

主張

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