奈良県保険医協会

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共謀罪(テロ等準備罪)の危険性

 「共謀罪」をめぐる論戦が国会冒頭から交わされ、3月21日に組織犯罪処罰法等の改正案として閣議決定された。安倍晋三総理は共謀罪の成立なくしては、国連国際組織犯罪条約を批准できず、2020年の東京オリンピックの開催も困難になると言い、金田勝年法務大臣は「法案を提出してから議論を深めるべき」など政府側からはいい加減な答弁が目立っている。そもそも政府が提出を図っている「共謀罪」は過去3度の国会提出を繰り返し、その都度反対意見が噴出し廃案となっている。今回政府は適用要件を若干変えた上で「テロ等準備罪」と名称を変え、法案を提出した。だが政府答弁には乱暴さや不明確さ、閣僚によっての齟齬が目につく。国民の理解を得ようとする姿勢が見られない。

共謀罪とは?
 政府が共謀罪の創設を唱えてきたのは、2000年採択の国際組織犯罪防止条約に加わるためだ。イタリアのパレルモで署名会議が開かれたことで「パレルモ条約」とも呼ばれるが、本来マフィアや暴力団の経済的利益を取り締まる目的で成立した物である。その後テロ活動の防止にも目的を広げてはいるものの、基本的にはマネーロンダリングや麻薬の取引等を取り締まる目的を持つ条約である。決して政府の言うテロ防止を直接的な目的とした条約ではない。
 ところが政府はテロ防止を口実に国内法である「共謀罪」を施行することが批准するために必要だと強弁し、名前を変えた上で再提案しようとしている。日弁連等は共謀罪成立が批准条件とはならないと指摘している。安倍政権の態度はトランプ政権が嘘を重ねた上でオルタナティブ・ファクトだと言い張るのと同じである。

刑法との関係
 本来日本の刑法の基本は「既遂行為」により法律で保護された利益を現実に侵害した場合に処罰することとしている。「未遂」や「予備」などは例外的に殺人・強盗・放火など重大な犯罪に限って規定されている。危険な意志に対する処罰である「共謀」は内乱など極めて特別な場合にのみに限られている。200を超えると言われる「重大な犯罪」の範囲での「共謀罪」の適用は警察・司法の恣意的な運用で戦前の治安維持法の再来にもつながる恐れがある。

プライバシー・内心の自由を侵害する共謀罪
 テロ対策はむろん重要な課題だが、市民団体や労働組合にも適用可能な、そして日常的に市民のプライバシーに立ち入って監視する捜査に道を開く共謀罪の成立には強く反対する。誠実な説明と情報公開を通じて議論を深め、真実を語る事が肝要だ。看板を替え、五輪を名目に成立を急ぐような態度は、厳に慎まねばならない。

【奈良保険医新聞第415号(2017年4月15日発行)より】

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