奈良県保険医協会

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地位協定と国民皆保険の接点

 地位協定と国民皆保険―一見結び付きそうにない言葉だが、その間に「安保条約」「米軍基地」を挟むと今日的な問題が浮かび上がってくる。

安保条約の意味
 日本はサンフランシスコ平和条約(1951)により独立主権を回復したが、防備がない日本はGHQが撤退すれば国家の「独立安全」を守るための手段がないため、当面の暫定措置として日本が米国に対して米軍の駐留をお願いして、それを米国が「日本がそこまで望むのであれば」と承諾したのが安保条約だった。したがって本質的には米軍という他国の軍隊の「駐兵条約」である。

地位協定とは
 安保条約(駐兵条約)における米軍駐兵の特権を定めたのが地位協定であり米軍駐兵=米軍基地は治外法権の世界である。したがって、米軍基地はどこに設定してもよいため、沖縄の普天間基地は移動しないし、どうしても移動して欲しいなら辺野古に移ると一方的に強行する。軍事活動が自由なため、日本国中自由にオスプレイが飛んでいる。横田基地の上空の広範な空域は日本の民間旅客機が他の地域のようには飛べない。横須賀港に停泊する原子力空母が被ばく事故を起こしても通知しない。基地内になにを持ち込んでもいいので劣化ウラン弾、核兵器ミサイルは自明の理だろう。さらに米軍兵士が基地外で犯罪を犯しても日本の法律では裁けない。また米軍ヘリコプターが民間施設に墜落しても日本の警察は立ち入れないし証拠保全もできない。

世界にある米軍基地
 米国は「前方展開戦略」という妄想で世界中に基地を配備して軍事力で世界を支配しようとして世界の70を超える国々に800余りの基地を保有している。特に敗戦国のドイツ(174)、日本(113)、イタリア(50)には多く配置されている(いずれの国においても地位協定があり、米軍の起こす不祥事が絶えない)。そしてそれを維持するために、米軍総兵力140万人、国防予算総額60~70兆円、米国基地には兵士、家族、文官、50万人、駐留維持費用に17兆円のコストがかかっている。

軍事大国アメリカの失敗
 それだけのお金をかけているにかかわらず、米国が基地を置いている豊かな先進国のほぼすべて―ドイツ、日本、韓国、イギリス、スペイン、イタリア、ポルトガル、ベルギ-、ノルウェ-―にある国民皆保険が米国にはない。米国は何十年も前に終わった世界大戦や冷戦から生まれた基地インフラの維持のために自国民に対する社会保障を怠ったのだ。

地位協定がある日本が進むべき方向
 基地という暴力装置で日本を恫喝しつづけている米国は今日、経済面でそれを維持できなくなってきている。怯えながらも自国民の社会保障を重視してきた日本は、米軍基地の存続に援助を差し伸べてはいけないし、その象徴である国民皆保険制度を脅かすTPPを受け入れてはいけない。トランプ大統領からどんな脅かしがあっても屈してはいけない。

【奈良保険医新聞第411号(2016年12月15日発行)より】

主張

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