奈良県保険医協会

メニュー

川内せんだい原発再稼働を視て思うこと――死にそうな日本

 1938年の核分裂連鎖反応のアイデアをもとに米国が最初に原子爆弾を製造、実験的に市民の頭上に投下した。2発の原爆で計20万人が即死、即死を免れた多くの被爆者は長い年月に渡り苦しみ、それすらも放射能被害のデータとした。

原爆から原発へ
 戦後、その核分裂反応の莫大なエネルギーを電力に転換しようと1954年に原子力発電が始まった。
 天然ウランに含まれるわずかな(0.7%)核分裂性ウラン235を、原爆では90%以上に、原子力発電では3%に濃縮して使用する。ウランの核分裂後に1%発生する人工的かつ強力な核分裂元素、プルトニウム239を同様に濃縮して核弾頭製造ならびに発電に利用する。ウランの資源量は約1500万トン、コストはキログラムあたり130ドルである。

環境無視の「低コスト」
 原子力発電は燃料効率が低いこと(約30%)、濃縮と運営コストが高いことを差し引いても、発電量が多いことで成立する。しかし、被ばくによる健康被害、原子炉冷却による海水温度上昇ならびに廃液、排ガスによる環境破壊が甚大であり、それらの膨大なコストは考慮されていない。
 世界中の資本家・大企業は、グローバルな資本主義の経済戦争を勝ち抜くため安くて安定した大量のエネルギーを求めてあらゆるエネルギーを争奪しているが、彼らにウランは低コストで安定して入手できるエネルギー資源なのである。ゆえに安易に原発に飛びつく。

原発→プルトニウム→核兵器
 原発の運転で生じるプルトニウムは放射能が高く超危険で、管理だけでもコストがかかるが、他方で強力な軍事兵器の材料である。よってその保有国は核武装のおそれのある危険な国として世界は認識する。
 現在の世界の趨勢はどうか。
 核兵器を大量に保持し多様なエネルギー資源を渉猟する米ロ、核兵器を少量保持し資源を持たない代償に原子力に邁進する仏、核兵器を持たず資源もないので再生エネルギーに活路を求める独、核兵器を中等量保持し経済の高成長を維持するために原発を推進する中国、政治目的で核弾頭を持ちたいだけのため小規模な原子力発電をする北朝鮮、軍事目的で核弾頭を保持しながら原子力発電をしないイスラエル、そして原発で経済発展を志向しあわよくば核武装で政治の道具にしようとする国々がある。

日本も核武装?
 日本はどうか。国民の多くは核武装に反対だが、戦後日本の政治を主導してきた政治家たちには一貫して核兵器を持つべきという考えがある。日本独特の先送り、両論並立主義から考えて、このままだらだらと原子力発電を続け、蓄積したプルトニウムをうやむやに処理しながら前述のような世界の動きに追従していくのだろう。その途中には第二のフクシマが生じ、自然は破壊され国民はますます被曝して疲弊していく。
 われわれ健康を第一とする良識ある医療人は、座して死を待つのではなく、原発をやめて再生エネルギーを強化し、豊かな日本の自然を回復して、エネルギーも食糧も自給できる国づくりを目指すべきと考える。

川内にみたフクシマ
 のどかで平和な、典型的な日本の海沿いの田舎である鹿児島川内せんだいを訪問した。その海には魚が来なくなり、産卵で有名な吹上浜のウミガメが死後漂着し、近辺の小学校は児童が自主避難して廃校になった風景があった。
 もうすでにフクシマはここにもゆっくり発生していたのである。

【奈良保険医新聞第401号(2016年2月15日発行)より】

主張

さらに過去の記事を表示