[共通番号制度] 幾重にも懸念―制度実施の撤回など見直しを
「社会保障と税の共通番号」(マイナンバー)関連の4法案が5月24日、成立した。これにより、政府は、すべての国民と企業などの法人個々に番号を割り当てて管理することになる。必要な政令等の整備を2015年末までにおこない、16年1月から運用を始めるという。
法案に対して、保団連は3つの問題点を指摘していた。すなわち、①社会保障の給付抑制と、税・保険料の徴収強化に利用する狙いがあること、②情報漏洩や「なりすまし」犯罪の危険が高まること、③費用対効果が明確でないまま巨額の国庫負担(=国民負担)が生じつづけるおそれがあること。
①は、法の基本理念に「社会保障制度、税制その他の行政分野における給付と負担の適切な関係の維持」が掲げられ、医療保険でも「給付に見合う納付」の名で、保険料取り立て強化や医療給付の制限につながることが懸念される。
また、国民一人ひとりの社会保障の給付と負担を収支勘定する「社会保障個人会計制度」創設の基盤になりうる。それは、国民に対して社会保障本来の意味を誤解させ、給付を抑制し負担を強化するための道具となる。
②は、システムの安全性そのものに不安がある。法案審議では「なりすまし」犯罪を防ぐ手だてがないことも明らかになった。それなのに、同法は税、社会保障、災害以外の「他の行政分野」、さらに「行政分野以外」の分野(=民間)への利用拡大が明記されている。他国ではすでに深刻な社会問題になっている大量の情報漏洩や「なりすまし」犯罪の危険に、わざわざ国民をさらすことになる。
③は、政府はICチップ付き個人番号カードを積極利用する方針で、システム構築の費用は約3000億円という。しかし、国会審議ではそれが固まった金額でないことを明かした。ランニングコストは年約300億円と言われている。
他方、導入効果の試算は示さず、利点と強調する行政手続の簡素化の効果も「個別に示すことは困難」と答弁、費用対効果は不明のまま。「巨大な『ITハコモノ』となる可能性が極めて高い」(日弁連)。
医療分野では、法案策定までに懸念が多く出されたことから、今回の共通番号制度では、患者の病歴や診療内容など「医療の身体情報」については利用範囲から外されている。しかし、今後、利用のための法整備が検討される見込みである。幾重にも懸念が強まる。
社会保障給付を抑え、国民からの徴税・保険料徴収は強め、得られる情報は民間にも開放して基盤整備ともども儲けの対象にするという制度は一体誰のためのものか。わずかばかりの行政手続の利便性―それもどれほど役立つか効果不明―のために、失うものがあまりに大きすぎないか。
法律が成立したとはいえ、今からでも制度実施の撤回など、見直しをすべきだ。
また、今回見送られた医療分野の診療情報等の利用の具体化が、早晩議論されることになる。警戒が不可欠だ。
主張
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