奈良県保険医協会

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再生可能エネルギーをどう考えるのか

「3・11福島」以前
 1986年のチェルノブイリ以降、世界の多くの国々は一旦は脱原発の方向に動いた。しかし、石油、天然ガスの化石燃料価格の高騰ならびにCO2温暖化による気候変動問題への対処などの社会事情を背景に、CO2を排出しない再生可能エネルギーを進めようという動きと連動して、原子力はCO2を排出しないという神話を偽装して「原子力ルネサンス」という原子力復権の流れが生まれた。

「3・11福島」以降
 原子力発電の歴史において地震、津波が原因で起きた初めての事故だったが、安全性が高いとされていた日本の原子力発電所が最悪レベルの原子力事故を起こし、広範な地域に被ばく災害を発生したことは世界的な原子力回帰の流れを一気に押し戻した。世界は残された選択である再生可能エネルギーの開発に軸足を移しだした。

日本と世界のエネルギーの現在
 2012年の世界全体の一次エネルギー消費量は133.7億トン(石油換算)であり、日本は5番目、4.5億トンである。
 さらに日本の総発電量は3番目、1兆1091億kWhであり、電源構成は2013年度は(1)火力90.5%、(2)水力7.8%、(3)原子力0.8%、(4)再生可能エネルギー0.8%である。世界の2011年のデータは表1の通りである。日本は「3・11福島」以降は原子力発電がほぼ不可能になり、火力発電で穴埋めしているのが現状である。

表1 主要国の電源構成割合(2011年)
 (1)火力  (2)水力 (3)原子力(4)再生可能
エネルギー
スウェーデン2.9%49.8%36.7%10.6%
フィンランド35.6%18.5%32.9%13.0%
デンマーク70.3%0.1%0%29.7%
アメリカ69.2%6.9%20.2%2.9%
中国81.3%15.9%1.9%0.8%
日本63.1%7.7%27.1%2.4%
ロシア65.5%16.7%16.7%0.3%
カナダ23.8%60.1%14.2%1.9%
ドイツ59.8%3.1%23.0%14.5%
フランス10.3%11.0%76.3%2.6%
ブラジル8.3%83.9%2.8%4.9%

日本のエネルギーの未来
 電源構成を見ればわかるように、ドイツを始めフィンランド、スウェーデンなど化石燃料資源のない国々はエネルギー資源を再生可能エネルギーにシフトしてきている。同じ化石燃料資源のない日本が今後どうすればよいかは明らかである。

再生可能エネルギーの現実
 世界で現実に稼働しだした再生可能エネルギーは太陽光、風力、バイオマス、地熱などそれぞれ一長一短があるが、いずれにしろ原材料費はゼロであり、CO2を排出しない。さらに発電をおこなう場所が一極集中ではなく、地域分散型であり、発電に伴う産業は地域中心となり過疎となりつつある日本の田舎を活性化することになるだろう。最大の問題は設備投資のコストであるが、それぞれの再生可能エネルギーにおける技術開発力は日本はトップクラスにあり、早晩大幅にコストカットされ解消されていくであろう。
 したがって、滅びゆく原子力発電に、貴重な日本の資力、知力を振り分ける余裕も道理もないのである。これから20年、30年後の日本のエネルギーを決めるのは今である。

【奈良保険医新聞第406号(2016年7月15日発行)より】


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