奈良県保険医協会

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近畿と福井の9保険医協会が近畿厚生局へ個別指導等に関する要望書を提出、同厚生局が文書で回答

 奈良県保険医協会を含む近畿厚生局管内の2府5県の保険医協会9団体(保団連近畿ブロックの8団体{=滋賀・京都・京都歯科・大阪・大阪歯科・兵庫・和歌山・奈良}と福井)は7月8日、近畿厚生局へ連名で「近畿厚生局管内で実施している個別指導等に関する要望」を提出しました。
 これに対して近畿厚生局は、同局医療課による8月27日付の文書で回答をおこないました。全文を掲載して紹介します。
 保険医協会9団体は10月24日、今回の要望と回答について、近畿厚生局と懇談して意見交換をおこなう予定です。

 全国保険医団体連合会近畿ブロック及び近畿厚生局管内の保険医協会近畿厚生局へ提出した個別指導等に関する要望(2019年7月8日提出)と、近畿厚生局による回答(2019年8月27日付)は次の通りです。
※ 太字で示した部分が近畿厚生局による回答。

【総論】

1. 保険医療機関等の要望や事情を踏まえた指導等の実施
 これまでの回答では「各厚生局が統一的に実施している」とされ、近畿厚生局独自の見解を示さないことが多く見受けられたが、所管内の保険医療機関等の要望や事情を踏まえた指導を近畿厚生局として実施すること。
〔回答〕
 指導等の実施については、指導大綱及びその他通知に基づき、各厚生局が統一的に実施しております。

【個別指導等の運用に関して】

2. 教育的観点を徹底した個別指導の実施と行政手続法の順守
① 新規個別指導は開業後6カ月以内に実施し、教育的な観点による指導を徹底すること。また、最近は「再指導」とされる事例が増えているが、新規開業医にとって精神的重圧も大きいことから、安易に「再指導」とはせず、指定前講習会などの教育的指導を充実させること。
〔回答〕
 新規個別指導の実施時期は、指導大綱等関係通知に基づき、新規指定から概ね6か月経過後、1年以内を目途に実施しています。また、指導は教育的な観点から実施しているところですが、指導の結果、適正を欠き、再指導を行わなければ改善状況が判断できないものについては、「再指導」としています。

② 被指導者に対して、一部の指導医療官による「懇切丁寧」ではない叱責や、指導が「威圧的に感じた」という報告も依然として寄せられている。また、指導や監査において、一部に「高圧的」とも受け取れる事務官の発言や振る舞いがあったとの相談も寄せられている。上記のような対応について認識しているか前回は回答がなかったため、回答していただきたい。特に、指導や監査によって生じる緊張や精神的圧迫など被指導者の精神状態にも十分配慮していただきたい。厚生労働省の示すパワーハラスメントの定義のうち、「精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)」と受け取られかねない言動の無きよう、お願いしたい。また、前回の文書回答では、「誤解されることのないよう留意することを周知している」としているが、「懇切丁寧な指導」を実施する上で、指導医療官および事務官の質の担保・教育についてはどのような取り組みを行っているか、具体的に示していただきたい。
〔回答〕
 個別指導等の実施については懇切丁寧に行うことを十分理解のうえ指導に当たっているところであり、引き続き誤解されることのないように留意することを各種会議や研修等の場で周知徹底してまいります。

③ 指導大綱にない個別指導の「中断」は被指導者が納得しうる合理的理由がある場合を除き、行わないこと。やむを得ず「中断」とする場合、前回の文書回答では、「特別の事情がない限りにおいて3月以内に再開するよう各課所へ周知しています」としているが、医療機関側の過度な精神的負担にならないよう、再開の時期をその場若しくは数日以内など、速やかに明示すること。また、中断件数については、「公表していません」との回答であったが、前回の懇談では「中断件数は集約していないが実施年月日から割り出せば数字は出る」とのことだったので、直近の中断件数を示していただきたい。また、電子力ルテべンダーへの調査事例も聞かれるが、業者への調査ができる根拠(法令等)を示していただきたい。
〔回答〕
 諸事情により、予定した時間内に終了できなかった場合にやむを得ず中断する場合があります。その場合は、保険医療機関に中断となった理由を、十分説明しています。なお、再開の時期については、日程等を調整する必要があることをご理解いただきたい。中断件数については、集計していません。また、電子力ルテ業者への調査については、各業者に協力としてお願いしているところです。

④ 個別指導の中断中における患者調査について、「必要に応じて実施している」と回答しているが、指導大綱では「不正又は不当が疑われ、患者から受療状況等の聴取が必要と考えられる場合は、速やかに患者調査を行い、その結果を基に当該保険医療機等の再指導を行う」こととされており、個別指導が終了していない「中断」の段階で患者調査が実施できる根拠を示していただきたい。また、監査に移行していない段階での患者調査は行わないこと。
〔回答〕
 患者調査は、健康保険法第60条第2項に基づき、必要と認めた場合、職員に質問させることができると規定されており、必要な場合に実施いたします。

3. 選定理由の開示及び指導結果理由の明確化
① 個別指導の実施通知に選定理由を明記すること。具体的な記載が困難な場合は選定理由区分(番号)で示すことも提案したが、検討自体はされたのか。少なくとも、被指導者より選定理由の問い合わせがあった場合には、口頭により選定理由を回答すること。
〔回答〕
 個別指導の対象となる保険医療機関の選定に当たっては、指導大綱に基づき実施しているところであり、選定理由については、診療報酬の請求点数に着目しているものの他、情報提供等によるものがあることから、情報提供者の保護の観点から、明示は行いません。

② 「経過観察」の結果、あらためて「個別指導」を行った事例について、平成29年度は実施がないとしているが、平成30年度の件数を示していただきたい。
〔回答〕
 平成30年度に、経過観察から改めて個別指導となった医療機関はありません。

4. 医療機関の事務負担軽減のための持参物軽減等
① 個別指導の対象患者の指定について、指導日の1週間前20件、前日に10件としているが、前日指定分があると、指導日前日の午後を休診にして準備せざるを得ないなど改善を求める声が多く寄せられている。診療態勢を確保する観点からも、30件すべてを1週間前に通知すること。
〔回答〕
 個別指導等における対象患者の取り扱いは、厚生労働本省からの通知に基づき各厚生局において統一的に行っています。

② 持参物の軽減について、具体的にどのような相談があり、どのような対応をしているか回答いただきたい。保険医団体に寄せられた相談からも、持参物については、実際のところ十分な軽減につながっていない。特に、電子力ルテの場合、修正履歴を含めて原則としてプリントアウトすることが求められており、持参物が膨大になり、準備にも相当な時間をとられている。持参物については、近畿厚生局の各事務所でも異なっており、同局で一定の裁量があるものと考える。したがって、持参物は指導を行う連続した2カ月分の指定とするか、少なくとも1年以内に限定するなど、指導にかかわる最低限のものにすること。
〔回答〕
 個別指導等の実施については、指導大綱及びその他通知に基づき、各厚生局が統一的に実施しています。
 また、書類が膨大で持参が困難である場合は、個別の事情に応じて対応していますが、状況に応じては求める場合があります。
 なお、電子力ルテ等の電子データによる場合は、紙に印刷して持参していただくしか方法がありませんが、保険医療機関における診療報酬請求の根拠となるカルテを訂正、修正している場合は、紙カルテを使用している保険医療機関への指導と同様に確認をする必要があると考えます。

5. 日常診療に差し障りのない指導日程の設定と運用
① 指導日の日程変更について、前回の文書回答で「学校健診」は正当な理由と認めると回答している。指導日に実施困難な事情が生じる場合は、相談に応じることを通知に明記するなど、柔軟な対応ができるよう改善をはかること。
〔回答〕
 個別指導等の実施通知は、指導大綱及びその他通知に基づき、各厚生局が統一的に実施しています。

② 集団的個別指導の複数日・複数会場での開催については、前回の文書回答で、「ご要望の趣旨を踏まえ、経費増額の影響も勘案しつつ、引き続き検討していきたい」と回答していることから、現在の検討状況について明らかにすること。また、日程の事前周知については、「集団的個別指導が高点数の医療機関であることの事情をかんがみ、公表すべきでないと考えています」と回答しているが、我々は指導日程の周知と高点数に関連性はないと考えているため、年度当初にすみやかに公表すること。
〔回答〕
 集団的個別指導の実施にあたっては、特に大規模である指導監査課(大阪)においては、一会場における収容人数等を勘案して、複数会場としているところです。
 複数日・複数会場で集団的個別指導を実施するべきとの、ご要望の趣旨を踏まえ、経費増額の影響も勘案しつつ、今後も引き続き検討していきたい。
 なお、日程の公表については、ご要望の趣旨を踏まえ検討してまいります。

6. 弁護士の帯同と録音
① 弁護士帯同は被指導者の権利である。権利行使のため隣席での帯同が不可欠だが、実際には被指導者から離れたところに弁護士の席が用意されている場合がある。弁護士は被指導者に委任された立場であり、隣席帯同は当然と考える。被指導者が希望した場合、弁護士の隣席帯同を拒まないこと。
〔回答〕
 保険医療機関が弁護士の帯同を希望した場合は、弁護士には発言、質問等が認められないこと等の一定の条件の下、帯同を認めています。
 指導対象となる者を優先し、会場のレイアウト等を考慮の上、柔軟に対応しているところです。

② 録音についても、個別指導の冒頭に録音することに対して否定的な発言をされ、被指導者が雰囲気におされて録音をやめてしまうケースも報告されている。このようなことがないよう対応いただきたい。また、このようなケースについて把握しているか、回答いただきたい。
〔回答〕
 保険医療機関から指導時の録音の許可を求められた場合は、録音が必要な理由を確認し、保険医自身による指導内容の確認が目的である場合は録音を認めています。なお、「録音内容は患者のプライバシーに関することも含まれることから、他人に聞かせる等、医師の守秘義務に反する目的での使用はできない」ことは説明しております。

7. 指摘事項
 前回の文書回答で、「当該療養の給付の算定額の一部が査定等により保険診療として認められなくなった場合は、算定額が減額となるので、同時に一部負担金として支払う額が減額となることから、当然返金が必要となります」としているが、少なくとも医療機関の再審査請求等により査定(減点)が確定していないものについてまで、一律に返金させるような指摘はやめること。
〔回答〕
 療養の給付に関する費用は、健康保険法第76条の規定により、「診療報酬の算定方法」(平成20年厚生労働省告示第59号)により算定されており、療養の給付を受ける者は、同法第74条の規定により、その給付を受ける際に一部負担金を支払わなければならない旨が規定されています。
 したがって、当該療養の給付の算定額の一部が査定等により保険診療として認められなくなった場合は、算定額が減額となりますので、同時に一部負担金として支払う額が減額となることから、当然返金が必要となります。

8. 自主返還
① 前回の文書回答で、「厚生局自体は、診療報酬の返還請求権を有しないことは承知している」と回答しているが、「自主返還」が厚生局主導で、半強制的に行われているのが実情である。本来、医療機関側の自己点検に基づく自主的な返還であること、行政手続法第32条1項でも「あくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現される」とされており、「自主返還」については被指導者の自主性を尊重すること。また、指導時の講評や結果通知で指摘されていない事項について、返還を求められる事例も報告されているが、このような事実について認識しているか回答いただきたい。
〔回答〕
 個別指導は、指導大綱及びその他通知に基づき、各厚生局が統一的に実施しており、返還についても統一的に取り扱っています。
 厚生局自体は、診療報酬の返還請求権を有していないところですが、厚生局が行った個別指導の結果、明らかに算定要件を満たしていないものについては、行政指導として保険医療機関に自主点検の上、保険者に対して返還いただくよう依頼しております。
 この場合、保険医療機関は、法律上の原因なく利益を受けており、保険者に損失を及ぼしていますので、民法第703条の規定により、当然、利益の存する限度において返還する義務を負っており、自主的に保険者に対して返還を行う必要があります。

② 個別指導後の「自主返還」について、前回の文書回答でも、「カルテ記載がない場合は、診療報酬請求の根拠が乏しいだけでなく、保険医療機関における医学管理が十分とは言い難いことから、指導にとどまらず返還を求める必要がある」と回答しているが、実際に療養の給付が行われているのに、課長通知に書かれた多数のカルテ記載事項のごく一部を満たしていないという理由のみで返還が求められることは、到底認められない。指導時の聴取等により療養の給付が行われたことが確認できるものについては、一律に返還を求めないこと。
〔回答〕
 個別指導時の返還については、通知に記載された内容が記載されていない場合、算定の要件を満たしていないものとして指摘し返還を求めており、各厚生局が統一的な取り扱いを行っています。

9. 集団的個別指導や高点数を理由とした個別指導
① レセプト1件当たりの平均点数が高い医療機関を対象とする集団的個別指導や、高点数を選定基準として行われる個別指導は、保険診療の改善に結びつくものではない。
 むしろ、医療機関に萎縮診療をもたらし、患者にとって必要な医療まで抑制しかねない。保険診療ルールの周知を徹底するのであれば、集団指導を充実させるべきである。
 厚生労働省、厚生局とも「高点数が問題ではない」と認めていることも踏まえて、集団的個別指導は廃止し、高点数を選定基準とした個別指導も実施しないよう、近畿厚生局から厚生労働省に働きかけるよう求める。
〔回答〕
 集団的個別指導や高点数を選定基準とした個別指導の実施については、指導大綱及びその他通知に基づき、各厚生局が統一的に実施しているところです。ご意見については伝えてまいります。

② 「高点数」の選定基準として行政が使用している「平均点数」について、依然として被指導者から算出の公正性および選定の公平性に疑義の声が聞かれる。その算出根拠(期間、院内/ 院外処方別の調整方法など)を明らかにすること。
〔回答〕
 「平均点数」の算出根拠は公表されていません。

【臨場による適時調査に関して】

10. 臨場による適時調査の事前周知
 臨場による適時調査は、すべての病院を対象に定期的に実施されることや、診療時間内に医療機関において長時間実施され、診療を制限せざるを得ないことも起こりうる。このことからも、適時調査の実施予定を前年度に知らせておくことは、地域医療の確保の点からも重要である。したがって、対象医療機関に実施予定日を前年度(少なくとも3カ月前)に知らせること。
〔回答〕
 適時調査の実施については、厚生労働本省からの通知に基づき、各厚生局が統一的に実施しています。

11. 自主返還
① 適時調査による自主返還は、法令・通知には明記されていない。 届出に関する通知にも「適合しないことが判明した場合は、所要の指導の上、変更の届出を行わせるものである。その上で、なお改善がみられない場合は、当該届出は無効となる」とあり、返還を求めずにまずは改善を指導し、後に再調査してもなお改善されていない場合に初めて返還を求めることとするべきである。
〔回答〕
 適時調査の目的は、医療機関から提出された施設基準が要件を満たしているか等を定期的に確認するものです。
 当然ながら施設基準の要件を満たさなければ係る診療報酬は算定できませんので、民法第703条の規定により、法律上の原因なく利益を受けたものについては、返還されるべきと考えます。

② 上記①が不可能な場合でも、臨場による適時調査の自主返還の対象期間について、前回の適時調査以降で基準を満たしていない期間分を「自主返還」の対象としているが、2~3年分に及ぶ「自主返還」が求められている。長期間に及ぶ「自主返還」は医療機関に過大な経済的負担を強いることになる。前回の文書回答で「(自主返還の対象期間を)1年とすることはできません」と回答しているが、適時調査の実施が本来は年に1回とされているところ、実際には2~3年に1回程度となっており、調査側の実施べースにより「自主返還」に期間が異なることになる。以上のことも考慮し、適時調査による「自主返還」の対象期間を個別指導と同様に1年とすること。
〔回答〕
 民法第703条の規定により、法律上の原因なく利益を受けたものについては、全て返還されるべきと考えております。


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