奈良県保険医協会

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理事長声明「安倍元首相の国葬に反対する」

 奈良県保険医協会はこのほど、下記の理事長声明を発表しました。

【声明】

安倍元首相の国葬に反対する
国による弔意の強制、安倍氏の政治路線の礼賛宣伝になりかねない

 安倍晋三元首相が7月8日、奈良市内の駅前の街頭で参院選の応援演説中に銃撃を受け、懸命の救命措置も及ばす亡くなったことに、私たちは大きな衝撃を受けた。理不尽に命を奪われた故人の無念や痛苦に思いを致し深く哀悼の意を表すとともに、ご家族にお悔やみ申し上げる。

 さて、岸田内閣は7月22日、急逝した安倍元首相の葬儀を国葬として9月27日に日本武道館でおこなうと閣議決定し公表した。その決定前に岸田首相が国葬にする意向を示したことに対して、すべきでないとの意見が複数の野党や市民団体、新聞社などから相次いで示され、NHK世論調査でも国葬方針を「評価する」49%、「評価しない」37%などと意見が二分していたにもかかわらず、である。

 国葬は、国による公的な儀式で、費用は公費で賄われ、その性格から故人への弔意を国民に強いるものとなりかねない。戦前の国葬令が廃され内心の自由を明確にした現憲法下での国葬は、1967年の吉田茂元首相の一例しかなく、当時より法的根拠に疑義があり以後に例はない。
 2020年の中曽根康弘元首相の葬儀(内閣と自民党の合同葬)では、文部科学省が強制ではないとしつつも、大学に弔旗・半旗掲揚や黙祷を要請する通知をおこない、さらに都道府県教育委員会にも参考として同趣旨の通知を送り、厳しい批判を浴びたことが記憶に新しい。国葬となれば、国民に弔意を強いるものになる不安は拭えない。

 岸田政権は、国葬とする理由に、安倍氏の憲政史上最長の首相在任期間とともに在任中の内政・外交の功績が素晴らしいものだったからという。
 しかし、安倍政権は、今日につながる新自由主義的な政策路線のもとで苛烈な社会保障抑制、集団的自衛権容認を閣議決定のうえ安保法制を強行、アベノミクスで貧富を拡大し格差社会を強めた。加えて森友学園問題・加計学園問題・桜を見る会問題といった相次ぐ「政治の私物化」疑惑に、虚偽の国会答弁を重ねて政治の信頼を失わせた。外交では日米同盟強化だとトランプ米大統領から求められた兵器の爆買いを繰り返し、プーチン露大統領とは北方領土返還交渉で妥協・譲歩に経済協力まで約していながら返還実現はならず事態を後退させた。これら、批判を免れない事績を重ねた史上稀に見る政権だった。
 今日、岸田政権が安倍・菅両政権からの政策路線を継承しているもとで、国葬は安倍氏を礼賛する機会となり、前述の批判されるべき事績や残された疑惑などを覆い隠す役割を果たすものになりかねない。

 国葬に法的な疑義があり、国民の意見が分かれているなかでふさわしくないだけでなく、弔意の強制で国民の内心の自由を侵すおそれがあり、今日の批判を受ける政治路線につながる政治家の肯定評価を時の政権が国の儀式として国民に押しつける機会となって政治利用されかねない。
 国葬に反対する。

2022年7月29日

奈良県保険医協会 理事長 青山哲也

見解

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