奈良県保険医協会

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理事長談話「ヒロシマ・ナガサキ、そしてオリンピック」

ヒロシマ・ナガサキ、そしてオリンピック
奈良県保険医協会 理事長 青山哲也(2021年7月25日)

 1945(昭和20)年8月6日午前8時15分、広島市上空のB29爆撃機「エノラ・ゲイ」からウラン型原子爆弾が投下された。巨大なエネルギーは一瞬にして高温の熱線と放射線を発し、大きな被害をもたらした。被害は長期にわたって拡大し、広島市は同年12月末までにおよそ14万人が死亡したと推定される。
 さらに、8月9日午前11時2分、B29爆撃機「ボックスカー」が長崎市にプルトニウム型原爆を投下。死者は同年12月までに7万4千人と推定されている。同時に広島、長崎の被爆者や被爆二世は後遺症に苦しめられており、その人たちにとっての戦争はいまだに終わっていない。
 戦争を早く終わらせるため、というトルーマン米国大統領の説明に対し、戦後のソビエト連邦に対する政治的優位性を得るための投下、との見方が広く受け入れられている。いずれにせよ多くの一般市民の頭上で原爆がさく裂し命を奪われ、あるいはその後の苦難の人生を、世代を超えて受忍させられたことの非人道性は言をまたない。

 非核の声を受け、昨年ついに核兵器禁止条約が発効した。現在批准国は54か国にのぼり、核兵器の非人道性が世界中で共有されている。ところが唯一の戦争による被爆国である日本政府はいまだ核抑止論に固執し、核廃絶の動きに背を向けているのが現実だ。

 さて、多くの国民の反対を無視し、安心、安全という言葉を呪文のように唱えつつ、水際対策も不十分なまま、選手に感染が判明した際の対応も十分検証しない状態でのオリンピック開催が強行された。2週間後、日本がどのような状況になっているのか、想像するだに恐ろしい。
 「福島の復興」をテーマに招致したオリンピックが、いつの間にか「人類がコロナに打ち勝った証」と変わっている。どう打ち勝ったと言うのだろう。平和の祭典、と言われるオリンピックが更なる新型コロナの感染拡大で、逆に世界の安全・安心に大きな禍根を残すことになるのでは、と危惧されている。

 オリンピック開催中に8月6日、9日を迎える。果たしてその両日をIOC、日本政府はどのように迎え、どのように祈るのか。甲子園での高校野球のように黙とうの一つでもするのだろうか。多くの国民が反対し、非常事態宣言下の東京でオリンピック、パラリンピックを強行開催するのであれば、そしてオリンピックが平和の祭典を謳うのであれば、せめて「ヒロシマ・ナガサキ」を世界に伝え、核廃絶を訴えるべきだろう。

※2021年度第8回理事会(7月25日)で確認

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