理事会声明:奈良県の医療の質を低下させ、空洞化、崩壊に導く「地域別診療報酬」―その導入も、検討も、断固として反対する
当会は、このほど開催した定例理事会において、下記の声明を確認しました。
2018年度第6回定例理事会
その導入も、検討も、断固として反対する
奈良県が提起した地域別診療報酬~到底是認できない
荒井正吾奈良県知事は3月28日の定例記者会見で、国民健康保険の都道府県単位化の取り組みについて説明するなかで、同日までに策定した第3期奈良県医療費適正化計画に言及、その要点の一つとして、計画に定めた医療費目標(2023年度、4813億円)の達成が図れない場合に、国保料の保険料の引き上げを回避できる水準まで医療費を抑制できるよう、診療報酬を引き下げることを国に求めることを検討することを打ち出した。これは、医療費適正化計画の策定を都道府県に義務づけた「高齢者の医療の確保に関する法律」(高齢者医療確保法)に併せて盛り込まれている“地域別診療報酬”の規定の発動を求めるものである。
診療報酬は、保
険診療におけるあらゆる療養の給付に要する費用を定めた公定価格で、厚生労働大臣が診療報酬点数表として示す。1点10円で全国一律に適用されるが、この1点単価をたとえば9円として特定の県のみ異なる単価にして適用することが地域別診療報酬である。同法が2008年4月に施行されてから適用された例はこれまでにない。
県医療費適正化計画に盛り込まれた方針は、県の医療費が同計画に設定した目標数値を上回る見込みの場合に国保保険料の引き上げを回避するために求めるとしており、例示のように単価引き下げが想定される。
我々は奈良県の保険医および保険医療機関として到底、このような方針は是認できない。
診療報酬は、保険診療の内容と質を定める性質をもつのであり、上記のような単価引き下げは国が定めた水準を否定し切り下げることになる。それは県民が受ける医療の水準を切り下げることである。
私たちはこれまでも診療報酬の内容や水準が低いことについて、国に対して大幅な引き上げを求めてきた。しかし、2018年4月に実施された診療報酬改定は技術料に限ればプラスとなったとはいえわずか0.55%に・
箸匹泙衞・舛魎泙狒澗里妊泪ぅ淵恒.25%だった。安心・安全の医療を提供するための水準にはほど遠いのが現状で、この改定に向け医療機関の経営状態を調べた医療経済実態調査では、多くの医療機関がたいへん厳しい経営を強いられていることが示されている。
そもそも高齢者医療確保法のしくみに大きな問題がある。老人保健法を改定して同法が制定されようとする時、医療需要の高い年齢集団を集めたうえにその医療費に保険料を連動させる構造の後期高齢者医療保険制度を創設する内容とともに、都道府県に適正化計画という事実上の医療費抑制計画の策定とその推進を背負わせて国が果たすべき責任を放棄する法制度に、私たちは強く反対した。今回の奈良県の姿勢は残念ながら、悪しき法制のもとで懸念された事態の一つが露呈したものと言わざるをえない。
都道府県単位で必要となる医療費を不当に削ろうとすること、あるいはその負担を地域内で保険料引き上げか診療報酬引き下げの二者択一で解決を図ることに無理がある。
国の医療費も、県単位でみた医療費も、高齢化がすすむなかで増大することは避け・ 蕕譴覆ぁ0緡鼎旅眦找宗糞蚕竸癖眦纊砲眩・舁廾・琉譴弔任△襦・靴・掘△修譴聾・韻紡个靴禿・擇憤緡田鷆,魍諒檗∧歉磴垢襪燭瓩糧駘僂箸靴討箸蕕┐襪戮④任△襦・修里茲Δ頁Ъ韻坊腓韻襪・蕁・緡堵颪凌㌘イ枠鬚韻覆・討呂覆蕕覆げ歛蠅箸垢詛Ъ碓貶嫖櫃箸覆襦・岼緡堵饒・甍①廚箸いΥ冉阿房釮錣譴討い襦・修旅圓㍍紊・箸海蹐蓮・覿匹楼緡鼎龍・恐修任△螳緡妬・・任△襦・/p>国が社会保障に責任を果たすよう求めることが第一
社会保障「改革」の名の下で、法が医療費の財源をもっぱら保険料に求めることを前提にしていること、国の政策路線として医療費抑制、社会保障費抑制を志向していることこそが根本的な問題であることを改めて指摘したい。
本来、医療をはじめ国民に必要な社会保障の費用は、第一に国の責任で手当をすべきであって、国民の生命や健康、福祉は最優先の歳出課題である。財源は歳出のムダを削るとともに大企業や高額所得者の適切な税負担等に求めることに解決の道筋がある。高齢化が進行しても就業人口は大きく減退せず、将来は人口減少もあり社会保障が永久に青天井で上昇するものでもない。医療をはじめとする社会保障関連分野は雇用面でも大きな社会貢献があり 、国の経済成長にも資する。
県が国に出すべき意見は、同法にもとづく意見ではなく、社会保障に国が責任を果たして、しかるべく国費を充当して都道府県や市町村に過大な負担を負わせないようにすることではないか。地域や県民に分断や対立をもたらす懸念も
地域診療報酬の問題は、さらなる課題を抱えていることも指摘しなくてはならない。
医療費抑制の手段として診療報酬引き下げを認めたら一地域に限らず、医療費抑制の手段として全国に波及の恐れがある。奈良県にとどまらず他府県でも、また国としても同様の方策がとられる先鞭となりかねない。
県単位で単価を変更することは、同じ保険診療が県境で価格が異なる事態を招き、県境をまたいで患者や医療提供体制の動向に様々な影響を及ぼすことが懸念される。
医療費負担にも直結する診療報酬(単価)の引き下げは、患者(県民)には一面、負担軽減のメリットがあることから、その一点で支持があるかもしれない。しかし、上述のとおり、患者が受ける医療の水準、質を決めるものであるから、その影響はやがて患者、地域医療に波及していく。
この課題をつきつけられることで、患者・地域住民と医療者を分断・ 径侘・気察△泙臣楼茲鯤・任垢襪海箸砲發弔覆・襦・/p>県民の受療権を害する「医療費適正化」は本末転倒
私たちは、医療の諸側面での効率化や合理化の努力を否定するものでない。不当に高額な薬価の是正、予防による健康増進等を通じた医療費の低減はもちろん歓迎される。
医療費適正化がそうした前進ではなく、必要な医療を削減し、県民の受療権を害するものであってはならない。その意味で、診療報酬(単価)引き下げは本末転倒で、およそ目的を見失った愚策である。奈良県が悪しき先駆者になってはいけない
これまで法制度上には存在したが使われることのなかった「地域別診療報酬」について、財務省の財政制度等審議会や、国の経済財政諮問会議で「活用」が議論されつつある。そのとき、奈良県の計画に盛り込まれた実例が示され、国の議論をリードする材料とされようとしている。
私たち奈良県の保険医は、医療費抑制策の新たな具体化へ奈良県が先鞭をつける、きわめて悪しき先駆者の役割を負わされることにも断固、反対である。
見解
- 2022年12月23日第57回定期総会 決議
- 2022年7月29日理事長声明「安倍元首相の国葬に反対する」
- 2022年3月3日【声明】プーチンの暴走とロシアによるウクライナ侵攻に抗議するとともに、ロシア軍の攻撃中止とウクライナからの即時撤退を求める
- 2021年9月24日コロナ特例の診療報酬、9月末での打ち切り表明への抗議と10月以降の継続を求める緊急要請
- 2021年7月26日理事長談話「ヒロシマ・ナガサキ、そしてオリンピック」
- 2021年5月26日「75歳以上の医療費窓口負担2割化」法案、少なくとも今国会での審議・採決はやめて、コロナ対応に集中を
- 2021年2月24日理事会声明「日本政府の核兵器禁止条約への参加は唯一の戦争被爆国としての責務」
- 2020年12月13日第55回定期総会 決議
- 2020年11月14日声明:日本学術会議に対する違法・違憲の人事介入に抗議し、推薦された候補者すべての任命を求める
- 2020年9月18日奈良県へ要望:地域別診療報酬ではなく、すべての保険医療機関に対する給付金等の財政措置を求めます
- 2020年2月4日厚労省公表の公的病院再編・統合「再検証」リストの問題をめぐり、当会など4団体で共同声明
- 2019年12月25日第54回定期総会 決議
- 2019年4月23日健保法等一部改正法案の徹底審議を求めます
- 健保法等一部改正法案の徹底審議を求めます
- 2018年5月17日理事会声明:奈良県の医療の質を低下させ、空洞化、崩壊に導く「地域別診療報酬」―その導入も、検討も、断固として反対する
- 2017年11月21日声明:マイナス改定は容認できません/地域医療を立て直すために診療報酬・介護報酬の大幅な引き上げを求めます
- 2017年6月16日声明:「共謀罪」(「テロ等準備罪」)を新設する組織犯罪処罰法等改正案の採決強行・成立に抗議し、廃止を求める
- 2017年3月22日声明:共謀罪(「テロ等準備罪」)新設に反対します
- 2016年12月23日「高齢者いじめの負担増」の中止を求めます
- 2016年12月3日TPP協定を今国会で批准しないよう求めて、参院特別委員へ緊急のファクス要請―奈良県保険医協会
- 2016年10月25日TPP協定を今国会で批准しないよう求めて、衆院特別委員と地元国会議員へ緊急のファクス要請―奈良県保険医協会
- 2015年9月19日[声明]安全保障関連法案の強行採決、可決・成立に断固として抗議する
- 2015年9月4日参議院議員あて「安全保障関連法案の拙速な採決に反対し、同法案の撤回、廃案を求める」要請―奈良県保険医協会
- 2015年7月16日[声明]衆議院での安全保障関連法案の採決強行に強く抗議し、同法案の撤回、廃案を求める
- 2012年10月5日オスプレイの配備に抗議、撤回求める声明/理事長と反核平和委員長
- 2012年7月20日理事会声明「日本の核武装を想起させる原子力基本法の改悪に抗議する」
- 2012年7月2日理事長声明「消費税増税関連法案と『社会保障制度改革推進法案』の衆議院での採決強行に抗議し、参議院での廃案を要求する」
- 2012年6月8日理事長声明「改めて大飯原発の再稼働に反対する」
- 2012年4月20日理事会声明「大飯原発の『安全宣言』に抗議し、再稼働に反対する」
- 2012年1月20日理事会声明「アメリカの新型核実験に抗議する」
- 理事会声明「診療報酬マイナス改定は回避したが医療再生にはほど遠い改定率―改定率の見直し、引き上げを求める」
- 2011年3月22日福島原発事故に対する声明
- 2011年2月18日医療の市場化拡大で国民皆保険制度の崩壊へと向かうTPPへの参加には強く反対する
- 2010年10月8日〈声明〉犯罪捜査のプロを指導監査に活用する提案と、その問題点を認識しない厚生労働省に強く抗議する
- 2009年11月30日副財務相の診療報酬引き下げ発言に対し財務省へ抗議文~奈良県保険医協会
- 2009年11月6日厚生労働省の政務三役に、レセオンライン義務化撤回求める要請書を送付/奈良県保険医協会
- 2009年10月19日レセプトオンライン請求義務化に関する請求省令の改正案への意見
- 2008年8月25日集会アピール(後期高齢者医療制度の廃止をもとめる奈良県集会)
- 2006年6月14日国民から医療を遠ざけ、国民皆保険制度を壊し、高齢者に苛烈な負担を強いる医療制度「改革」関連法案の可決・成立に抗議する
- 2006年5月19日国民皆保険制度を崩壊させる医療「改革」法案の強行採決に抗議する
- 2006年1月10日(休載)
- 2005年12月20日診療報酬・介護報酬の大幅引き下げに抗議する
- 2005年11月1日国民皆保険制度の発展と逆行する医療構造改革試案に反対、患者負担軽減・診療報酬改善など求めて中央行動(10月27日)
- 2005年10月4日「制限回数を超える医療行為への混合診療導入」の中止と、診療報酬における、医療上の根拠があいまいな回数制限の廃止を求める緊急要請書
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