奈良県保険医協会

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高度急性期・急性医療病床削減は拙速―奈良県地域医療構想を考える

 3月28日、奈良県医療審議会が開催され、県の地域医療構想が決定された。一昨年成立した地域医療・介護総合確保法に基づき、各都道府県で2025年の医療体制に向けた地域包括ケアシステムの構築、都道府県ごとの病床数の策定等が義務付けられている。
 全国と同じく奈良県の人口は今後、減少していくことが予想されるが、高齢化にともない医療需要は増えていくことが予想される。
 県の算定では、急性期病床は現在より減らし、回復期病床は増やす必要があるが全体の病床数では約1000床過剰であるという試算が出ている。

図:奈良県における2025年の機能別の必要病床数

急性期病床は大幅削減
 具体的には、2015年の病床機能報告では、①高度急性期1419床、②急性期7022床、③回復期1832床、④慢性期3429床、休棟も合わせ14053床を、①1275床、②4374床、③4333床、④3081床の計13063床としている。高度急性期・急性期は2800床近く減らし、回復期・慢性期は2150床あまり増やす。全体では1000床近く減らす計画となっている。病床数の調整は各医療圏単位の地域医療構想調整会議で決定されることになる。
 現在奈良県は救急搬送時間が長く(平均34分・全国44位・2012年)、高度急性期・急性期病床数を減らせば救急医療難民が増加することが懸念される。特に南和地域については救急医療拠点病院が大淀町の南奈良総合医療センターのみとなっており今でさえ県外搬送率が高く医療資源が乏しい。

今後の十分な議論を
 減らした病床数は、在宅医療等でまかなうこととされているが、パンデミック等がおこった場合急性期の病床が足りなくなる危惧があり、医療関係者の十分な議論が今後必要である。また、県の地域医療構想を決定する医療審議会に医師会代表が委員として入っていなかったことも問題視される。学者や有識者ばかりではなく、開業医の立場からの意見を聞くべきであった。

過去の経験を活かし、最善の策を
 2006年に脳内出血を起こした妊婦の救急搬送先が見つからず、死亡してしまう事態が起こり、その後関係者の尽力もあり周産期医療については総合周産期母子医療センターを奈良県立医科大学付属病院に設置し、NICU(新生児集中治療室)や後方病床を増やし、一次救急については在宅当番医制を設けるなどして一定の改善が図られ、県外搬送率は改善(2008年22.5%→2011年7.6%)された。
 国の政策決定による上意下達により再び県内で十分な医療供給を行えなくなる事態が起こらないよう、最善の策をとるべきである。

【奈良保険医新聞第409号(2016年10月15日発行)より】


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