奈良県保険医協会

メニュー

集団的自衛権行使容認の閣議決定―その背景にあるもの

 7月1日に自民党と公明党の密室での与党協議により、集団的自衛権の政府解釈変更の閣議決定がなされた。

 この事実に関して大きく二つの問題点がある。一つは内閣の越権行為がなされたことであり、もう一つは集団的自衛権を発動する条件を変更したことである。
 1点目、内閣が行い得る機能である行政権は立法と司法の後に発生するものであり、憲法解釈を変更するような行政を内閣が単独で行えないものである。そもそも集団的自衛権の行使は戦争することであり、重大な憲法違反である。
 集団的自衛権を自衛隊に命令するには法律による根拠と国会の審議が必要であり、内閣総理大臣の意思だけで施行できるものではない。これが可能とするなら、まさに旧日本帝国憲法下で行われた天皇のご聖断と同じになる。安倍晋三首相が普遍的な民主主義の原則を理解していないことがうかがい知れる。

 2点目について、5月15日に「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制墾)」の後押しを受けての記者会見でグレーゾーンの15例をイラストを掲げながら説明したが、いずれも一笑に付されるような稚拙な論理であり、国民の不信感、失望感が増大した。そこでこの内閣は開き直って、「武力行使3要件」を引き合いに強行しようとしている。つまり、3要件の一つ「日本や密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福の追求の権利が根底から覆される明白な危機がある」場合に内閣だけの判断で集団的自衛権の行使を強行するつもりなのである。
 具体的には何を想定しているのかと問われて、安倍首相は「思いつくのは中東ペルシャ湾での機雷撤去」としか返事できず、これとて実際は湾岸戦争でペルシャ湾の機雷はまかれたものの日本の経済や市民生活が根底から覆されるような明白な危機はなかったのである。

 自衛隊が米軍と協力して海外での武力行使を可能にするためにはもうすでに特定秘密保護法ならびに武器輸出3原則が成立しており、あとはこの集団的自衛権行使だけである。自由主義経済を武力を背景に推進したい米国とその恩恵を維持したい日本の大企業、保守支配層はこれらの動向を支持している。しかし不気味なのはその枠を超えて軍事大国を目指している安倍首相の思想である。

 戦後70年間、二度と戦前のような忌まわしい体制に戻りたくないと考えて、米国に従属しながらもとにかく平和だけは守り、そのかわりに経済で見返してやると踏ん張った日本人が、今岐路に立たされているのである。また再び安倍内閣の下で戦前の軍事大国に戻って良いのか、各人が真剣に考えなければならない時が来ている。

【奈良保険医新聞第385号(2014年10月10日発行)より】

主張

さらに過去の記事を表示