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退職した職員がパワハラを訴え、あっせん開始通知書が来た

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

退職した職員がパワハラを訴え、あっせん開始通知書が来た
【2021年2月】


 労働局から「あっせん開始通知書」という文書が届きました。申請人は、先月に当院を退職したパートで、パワハラがあったと主張しています。ある程度は自分で考えて仕事をこなすことができると思って仕事を任せていたので、パワハラなどと言われ驚いています。この「あっせん」に応じなければいけないのでしょうか。


 これは強制ではないので、応じなくても罰則はありません。通知書の「あっせんを求める事項及びその理由」には何と書いてありますか。


 「新人でやり方も分からないのに、書類の山を渡され、聞いてもコミュニケーションを取ってくれなかった。これは厚生労働省のパンフレットにある『人間関係からの切り離し』『過大な要求』に該当する」として、精神的苦痛に対して慰謝料50万円支払いを要求しています。


 2020年の労働相談件数は全国で118万件、12年連続で100万件を超え、この8年間は「いじめ・嫌がらせ」がトップです。これからもいじめなどによるパワハラをめぐるトラブルは増加すると思われます。強制ではありませんが、今後の対応の参考のためにもできたら「あっせん」に参加した方がいいと思います。


 慰謝料も請求してきています。それでも応じなければいけませんか。


 ゼロ回答でも構いません。あっせん委員は弁護士、経験豊富な社会保険労務士や学識経験者が行います。相場なども知っていますから参考になると思います。


 「あっせん」はどのようにするのですか。


 別々に交代であっせん委員に説明し妥協点を探ります。当事者同士顔を合わせることはありません。それでも交代で30分くらいずつあっせん委員と話しますから、合計3時間くらいかかることがあります。原則1日で終わります。


 私の代わりに、当院の事務長が行ってもいいのですか。


 構いません。ゼロ回答でもいいのですが妥協するなら、あらかじめ妥協点も検討しておいた方がいいでしょう。


 その場合は、どのくらいの金額を想定しておけばいいのでしょうか。


 パワハラの場合、高額になることはめったにありません。


 インターネットで調べると、相場は50万円から100万円とありました。


 そんなに高額になるのは、はっきりした証拠のある場合です。今回の件はパワハラと言えるか分かりませんが、少しでも和解金を出した方がこじれない可能性が高まります。私が関わった同様な事案では5万円で和解しました。


 今回の事例はパワハラになりますか。


 パワハラとは、①優越的な関係を背景とした言動であり、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによって、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。この件は、これには該当しない可能性が強いと思います。裁判の判決と違い、あくまでも妥協点を見つけるためのものです。「パワハラ防止法」が2020年6月(中小企業は2022年4月)より実施されました。これを機に職場内のパワハラの芽がないかチェックしていただきたいものです。

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