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能力がない事務長を変えることができるか

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

能力がない事務長を変えることができるか
【2016年10月】


 父の診療所を継ぐことになりました。30人くらいの診療所ですが、事務長の能力不足が目立つので辞めてもらおうと思います。解雇することに問題はありますか。


 今の日本は「解雇権乱用の法理」が確立されていて、そんなに簡単に解雇できません。


 診療所を経営している友人によると、解雇された職員が労働基準監督署へ駆け込みましたが、労働基準監督署の指導で1力月分の賃金を支払って解決したと言っていましたよ。


 労働基準監督署は、解雇については30日前に予告したか、 30日分の平均賃金つまり解雇予告手当を支払ったかどうかしかチェックせず、解雇権の乱用かどうかは判断しません。その職員が労働法に対する知識が不足していたために問題にならなかったのだと思います。労働基準監督署ではなく、弁護士や、1人でも加入できる労働組合に駆け込んでいたら大変なトラブルになったと思います。


 しかし本当に能力がなくて困っています。


 能力不足と言いますが、先生が求める能力は明確になっていますか。


 ともかく問題解決能力がないと思います。私が前に勤めていた病院では、幹部は面談で一般職員から問題点を引き出していました。そこで一般職員と面談するよう指示したら、何もしゃべらないでじっと向き合っているだけなのです。


 小規模の診療所では職務評価制度など実施したことがないので、いきなり面接して評価しろと言っても何をやっていいのかわからないのだと思います。診療所の事務長の仕事はこれだというものがありません。能力不足を理由に解雇することは、証明するのが困難で、かなり難しいです。


 解雇できないのなら他の部署に変えようと思いますが、それはどうでしょうか。


 日本では、職場の雰囲気を変えるために解雇することは困難ですが、配転は人事権の行使として広く認められています。ただ不当な動機、目的をもってなされた配転は権利の乱用となります。


 仕事が変わるわけですから賃金も下げることができますか。


 賃金を下げるには就業規則に根拠がなければなりません。賃金の変更についてはどうなっていますか。


 「昇給は毎年4月に行う。ただし、医院の業績によっては行わないことがある。」となっています。


 そうすると先生のところは、昇給しかなく降給はないということになります。したがって賃金を下げることはできません。


 でも当人が同意すればいいのではありませんか。


 いいえ、労働契約よりも就業規則が優先します。したがって就業規則以下の契約は無効となり、賃下げは無効となります。


 就業規則を変更すれはいいのですね。労働者代表の意見を聴いて就業規則を変更します。


 確かに労働者代表の意見を聴けば就業規則は変更できます。労働基準監督署も受付印を押してくれます。しかし、就業規則の不利益変更は裁判になるとほとんど認められません。もしも変更するなら全員の同意を得るのが安全です。

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