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老後不安が高まる中、公的年金の持続性をどう考えるか

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

老後不安が高まる中、公的年金の持続性をどう考えるか
【2019年9月】


 老後の資金が2000万円不足するとした金融庁の報告書についての記事を読んで、公的年金が持続できるのか心配になってきました。公的年金、つまり厚生年金や国民年金はつぶれることはないのでしょうか。


 厚生労働省は「公的年金は、わが国の経済社会が存続する限り決してつぶれることはない」と言っています。実際に国がつぶれても年金制度は簡単になくせません。 例えば、ソビエト連邦は1991年崩壊しましたが、現在ロシアではソ連時代に現役だった人々が年金受給年齢になっています。不十分かもしれませんがロシアのお年寄りは年金を受けています。プーチン大統領が就任して以来、一貫して高い支持率を誇ってきたのも、1つには「退職者にきちんと年金を支給し、老後の生活に対する国民の不安を払拭してきたからだ」と言われています。いかに強引なプーチンといえども多数の国民を敵に回せないのです。


 しかし、民間の私的年金の方が、利子がついて戻ってくるのでいいという人もいます。


 公的年金にははっきりとした優位性があります。1つは国庫負担です。国民年金(基礎年金)の給付額の半分を国が負担しています。2つ目は、事務費はすべて税金から出ており、保険料は使っていません。民間の個人年金には当然国費は投入されていませんし、しかもかなりの部分が事務費として使われています。
 私が社会保険労務士になりたての頃は「物価スライドがあるので、今の価値が保障されます」と言って厚生年金の加入を訴えてきました。しかし、マクロ経済スライドによってこの優位性が低下してしまいました。


 マクロ経済スライドって何ですか。


 公的年金の給付額(年金額)は毎年、物価や賃金の変動にあわせて改定されます。本来は、物価が伸びれば、年金額も物価の伸びにあわせて増額されないと実質減額になります。マクロ経済スライドは、年金額改定の際に、年金額の伸びを物価の伸びより低く抑える仕組みです。


 それでも公的年金の方が有利なのですか。


 物価スライドも不十分ながら残っているので、長期にわたって生活水準や賃金などの上昇を踏まえた給付を行うことができます。また、どんなに長生きをしても亡くなるまで給付されます。


 財源はどう考えますか。


 私は、保険料にも応能負担を導入すべきだと思います。厚生年金は、標準報酬に基づき保険料を徴収する方法を取っています。 役員報酬は賞与がない企業が多いので、月々の月収だけで計算している場合がほとんどです。年度始まりの受け取り給与の平均値である標準報酬月額の上限は62万円。それに保険料率18.3%をかけた額が徴収されます。
 この額で計算すると、あのカルロス・ゴーン氏のような高額所得者でも本人負担は月額5万6730円、年間68万760円。年間の役員報酬10億円の0.006%に過ぎません。私たち同様18.3%の保険料を徴収すれば保険財政はかなり助かります。それと労働者数の40%にもなった非正規雇用労働者の賃金を上げ、全員社会保険に加入させれば保険財政はかなり豊かになります。

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