奈良県保険医協会

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米国の「保守主義」に翻弄される日本の社会保障―プログラム法による医療制度改革はいらない

 現在国会で審議されている医療・社会保障の「改革」を理解するには、日米関係と米国の歴史を知る必要がある。
 西暦1500年前後に欧州の新興市民(商人たち)はモンゴル人とその同盟者イスラム商人に追われ「大航海」に乗り出し「宗教改革」を起こした。「宗教改革」はカトリック教会が築きあげた社会秩序を打ち破ろうとする新興市民の革命運動であるが、弾圧を受けた新興市民は新天地に逃れ、その理念を完全な形で実現すべく米国を建国した。
 したがって米国は、他国のような長い歴史を持つ民族単位の国ではなく、移民してきた異なる民族の「理念の共有で成り立つ国家」でありその理念とは「自立した自由な市民が緩やかな共同社会を作る」ということである。
 米大陸の開拓者は新しい「市民社会」や「資本主義」の制度を実験的に構築したが、それらを創る上で二つの考え方が生まれた。一つは「自由と自立」が優先する「保守主義」であり、他方は個々人や企業が自立して活動しやすい環境の整備が大切とする「リベラリズム」である。
 その二つの思想によりできた制度は、前者においては課税は最小限度にして政府の経済介入を極小化することを目指し、後者は利益を得た個人や企業に相応の負担を求め、公平な社会を構築するため政府が率先して行動すべきと考えた。
 戦後70年間の日本にはこれら米国の「理念」の歴史が色濃く反映している。1950~70年の米国全盛期は「リベラリズム」が花開き、日本では日本独自の社会保障制度が完備され国民皆保険制度、老人医療費料化が実現した。しかし、80年より始まった米国の斜陽は「保守主義」の流れを起こし、「金融自由化」「規制緩和」「IT革命」「グローバル企業」「新自由主義」を発生させ、現在の日本の社会保障制度を崩そうとしている。
 「社会保障と税の一体改革」「プログラム法」はその流れの中にあり、その意図は社会保障への国の関与をできるだけ減らし、岩盤規制で守られていた日本の医療制度を解体し、利益企業集団に「成長産業」として開放しようとするものである。
 戦後の日本は、政治・経済において米国の影響を強く受けてきたが、こと医療は米国のシステムとは異なる欧州型の「国民に対して良質かつ高度な医療を受ける機会を平等に保障する仕組み」を作った。
 もちろん、現在は設立当時とは状況が変化し、少子化、人口減少、職業ならびに雇用形態の変化が制度のきしみを生みだしてきているが、このまま審議中の法案に刷り込まれた米国の押し売りを甘受するのではなく、原点に返って日本オリジナルの社会保障制度を再構築すべき時が来ていると考える。

【奈良保険医新聞第390号(2015年3月15日発行)より】

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