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管理職には残業代を支払わなくていいか

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

管理職には残業代を支払わなくていいか
【2006年12月】


 私のところは3カ所診療所があります。師長(婦長)には時間外手当を支払っていません。ところが最近「時間外手当の出たときと収入が大して変わらない。責任の割にこれでは合わない」という不満が出ています。労働基準法上も管理職には時間外手当を支払わなくていいのではないでしょうか。

A
 確かに労働基準法41条には「監督もしくは管理の地位」にあるものは労働時間等に関する規定の適用除外の対象になっています。


 そうでしょう。婦長は管理監督者ですから時間外手当を支払わなくてもいいわけでしょ。

A
 それが管理者あるいは管理職になれば誰でも労働基準法に定める「管理監督者」になるとは限らないのです。実はこの間題のトラブルは多いのです。最近有名になったのはファミリーレストランの店長が管理監督者であるとして残業手当が支払われなかったことは不当であるとして訴えました。私の見解ではファミリーレストラン店長などはとても労働基準法にいう「管理監督者」といえませんから経営者も裁判になる前に解決したほうがいいと思います。

時間外手当のトラブルは裁判に持ち込むな


 裁判になる前に解決したほうがいいとはどういうことですか。裁判で白黒はっきりさせるべきではないでしょうか。

A
 実は時間外手当については、裁判所は時間外手当とは別に未払金と同一額の「付加金」の支払いを命ずることができるとなっています。


 どういうことですか。

A
 たとえば残業の未払い賃金が300万円あったとします。付加金を支払えとなると残業賃金の未払い額300万円ともう300万円の付加金合わせて600万円支払えとなるということです。


 そんなことってあるのですか。

A
 あります。私も実際経験しました。


 それでは厚生労働省では管理監督者についてどう言っているのですか。

A
 厚生労働省も通達で、「監督または管理の地位にある者とは、一般的には、部長、工場長など労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的に在るものの意であり、名称に捉われず実態に即して判断すべきものである」として、①出退勤について厳格な規制を受けていない。②職務の内容がある部門の統括的な立場に在る。③部下に対する労務管理上の決定権について一定の裁量権を持っている。④部下について人事考課の権限を持っている。⑤その労働者が管理職手当ないし役職手当など特別手当が支給され、その地位にふさわしい優遇措置が講じられている、などの条件を満たしている労働者です。


 師長(婦長)手当が支給されていればいいものではないということですか。

A
 そうです。少なくとも残業手当を受け取っていたときよりも総収入が落ちるようでは管理監督者といえないでしょう。


 宿直者などで賃金を安くするときは労働基準監督署の許可を受けますが、管理監督者として従業員を扱うときは労働基準監督署の許可が必要でしょうか。

A
 許可は必要ありません。これが災いし、トラブルが表面化しないと問題にならないのです。


 うちの師長(婦長)はタイムカードを押しているけど、人事評価の助言はしてもらっています。それに婦長手当は月額3万円支払っています。残業はせいぜい月に20時間程度です。この場合は管理監督者になりますか。

A
 実態に即してみないとはっきりいえません。私の感じとしては、婦長さんで3万円程度の手当で20時間の残業代を支払わなくていいとはならないと思います。むしろ婦長手当も算入して時間外手当を支払えと言われる恐れもあります。労働基準監督署とよく相談したほうがいいと思います。

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