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管理職と「管理監督者」は違う

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

管理職と「管理監督者」は違う
【2008年7月】


 「名ばかり管理職」が間題になっています。うちの診療所でも、看護師長には役 職手当は支払っていますが、残業手当は管理職には支払わなくていいと聞いたの で、支払っていません。問題ありますか。

A
 世間一般でいう管理職と、労働基準法41条にいう「監督若しくは管理の地位にあるもの」、いわゆる「管理監督者」とは違います。


 役職者は、管理監督するから「管理監督者」ということにならないのですか。

A
 なりません。労働基準法にいう管理監督者は、①出退勤について厳格な規制を受けていない。②職務の内容が全社的あるいは、ある部門の統括的な立場にある。③部下に対する労務管理上の決定権がある。④部下に対する人事考課権限がある。⑤その地位にふさわしい管理職手当ないし役職手当が支払われている、などの条件を満たしている人です。


 「マック」や「コナカ」の店長は、この管理監督者にはならないということですか。

A
 そうです。報道によれば、「マック」の店長などは平社員から店長になったら、年収にして100万円近くダウンしてしまったそうですから深刻です。これでは残業代逃れの脱法行為といわれても仕方がありません。


 私のところの看護師長は「管理監督者」に該当しますかね。

A
 先ほど私が示した5つの基準に照らしていかがですか。


 大体クリアしていると思います。

A
 先生、そうはいっても、厳密にいうと中小企業では「管理監督者」と認められる事例は、極めて少ないと思います。


 しかし、看護師長は責任感を持ってしっかり仕事をしていますし…。私は「管理監督者」だと思いますがね。

A
 今はうまくいっているので問題ないと思います。労働基準監督署も労働者が申告しなければ何もいってこないでしょう。しかし、いったんトラブルになると分かりません。大体その看護師さんには年収でどのくらい支払っていますか。


 うちは田舎だから大体540万円程度だと思います。

A
 そのくらいですと、「役職者にふさわしい報酬といえない」といわれる可能性があります。実際には、トラブルになったときは一部の例外を除いて、ほとんど労働基準法上の管理監督者と認められることはありません。


 本人は急患が来たときなど、勤務時間に関係なく献身的に働いてくれています。問題になることはないと思いますが。

A
 それはなんともいえません。「働かせる側」と「働かさせられる側」では立場がまったく違います。その辺はリアルに見る必要があります。私も、医療機関の職員の方に「何か不満はありますか」と聞いたところ、「不満は医院長と給料です」といわれ、びっくりしたことがあります。


 それでは、対応はどうすればいいのでしょうか。

A
 先生のところの管理職の方は1カ月当たり大体どのくらい残業していますか。


 正確に計算していませんが、2時間くらい残業することが10日ばかりありますので、20時間ほどだと思います。

A
 一番正しい方法は、残業時間をきちんと計算し、残業手当をきちんと支払うことです。


 そんなことはいまさらできません。過去に遡って支払えとなったら大変です。

A
 そうすると、管理職手当の中身を検討し、管理職手当の一部は残業代とすることです。


 しかし、管理職手当はその役職に支払うものではないのですか。

A
 当然のご意見ですが、役職者は一般の従業員の労働時間を管理しなければならないのですから、残業は当然しなければなりません。従って、賃金規程に「役職手当は、それ白体が残業手当の意味を持つもので○○時間相当分の残業手当とする」などと、明記することです。

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