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求人誌と労働条件が違うとしてトラブルに

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

求人誌と労働条件が違うとしてトラブルに
【2010年7月】


 パートの看護師を求人誌で募集し採用しました。ところが経歴に見合った能力がまったくありません。したがって求人誌の条件より1万円下げて賃金を支払ったところ、これは不当だといってきました。その差額は支払わなければならないのでしょうか。

A
 労働契約書は結ばなかったのですか。


 結びませんでした。しかし、能力がないのですから賃金を減らすのは当然ではないでしょうか。こちらの約束をした仕事が出来ないわけですから。

A
 先生のおっしゃっている意味は分かりますが、このようなトラブルを防ぐために労働基準法第15条は労働条件を明示することを義務付け、労働基準法施行規則第5条では書面の交付で明示することを明らかにしています。


 どんなに能力が低くても求人誌掲載と同じ条件で雇用しなければいけないのですか。

A
 それは必ずしもそうでありません。よく話し合って求人誌の条件と違う条件でお互いに合意すれば、それが労働契約の内容になります。パート労働法(短時間労働者の雇用管理の改善に関する法律)でも労働契約の重要性が強調されています。パート労働法では労働基準法上の明示義務に加えて①昇給の有無②退職手当(退職金)の有無③賞与の有無が義務付けられました。月刊保団連臨時増刊号『医院経営と雇用管理2007年版』に労働条件通知書の見本があります。


 今までこのようなトラブルはありませんでした。書面で労働契約を結ぶなど考えたこともありませんでした。

A
 1990年代と比べて2000年代は労使トラブルが飛躍的に増えています。各地の保険医協会でも無用なトラブルをなくすためにセミナーなど開催しています。先日も「私は患者で悩むよりも従業員で悩むことのほうが多い」と嘆いておられる先生がおられました。これからは先生方も労務に関する最低の知識は必要だと思います。


 実はこの看護師は最初の給料を支払ったあと5日働いて突然来なくなってしまいました。携帯電話もつながらず困っていました。すると突然手紙が来て、当初約束した賃金との差額1万円と、その5日分の賃金を支払うよう要求してきました。払わない場合は関係機関に訴えると言っています。

A
 そうすると明示された労働条件と違うとされ労働基準監督署へ訴えられる可能性があります。


 労働基準監督署へ訴えるとどうなりますか。

A
 労働基準監督官が調査に来るか呼び出しがあります。そこで賃金台帳、出勤簿、労働契約書、就業規則などにより事実関係を調査し必要であれば是正勧告があります。


 この場合、労働基準監督署はどのように対応することが予想されるでしょうか。

A
 働いた分については支払えということになります。最近は労働基準監督署が機敏に対応するようになり、特に賃金不払いに関しては厳しい対応をしています。労働基準法違反では賃金未払いに関する送検件数が一番多いそうです。


 私は、転勤の費用としてこの看護師に20万円貸しました。この貸金と相殺できますか。

A
 本人の了解なしにはできません。


 どうせ本人は返さなければならないのですから問題ないのでは。

A
 本人が了解しなければ労基法24条違反となります。面接で人を見分けることは難しいのですが、採用面接のときはどんな様子だったのですか。


 転職が多かったですね。

A
 転職の多い人は履歴書に基づき退職理由を聞く必要があります。これだけでその後の労使トラブルの発生を極力防ぐことになるでしょう。

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