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歩合給でも有給休暇中の賃金を支払う必要はあるのか

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

歩合給でも有給休暇中の賃金を支払う必要はあるのか
【2020年10月】


 当院では勤務する歯科医師の場合、歩合給にしています。それなりの報酬を支払っていたのでこれまで誰も苦情は言ってきませんでした。それに、有給休暇という形では休んでいませんでした。しかし、2019年から有給休暇も最低5日与えなければならなくなりました。完全歩合給でも有給休暇中の賃金は支払わなければならないのでしょうか。


 有給休暇中の賃金は、①通常の賃金、②平均賃金、③健康保険の標準報酬日額を支払うことになっています。先生のところの就業規則では、上記①の通常の賃金となっているようですが、どうやって計算していたのですか。


 歯科医師以外は月給制ですから休んでも賃金を支払いますが、歯科医師は有休をとっていませんから改めて支払っていませんでした。


 これからは事業主に有給休暇5日の付与義務が発生しました。これは罰則付きで一人当たり30万円の罰金です。


 有給休暇中の賃金は、どうやって計算するのですか。


 有給休暇中の賃金を通常の賃金で計算する場合は、歩合給をその月の賃金計算期間の総労働時間で割って、1日当たり平均所定労働時間をかけて計算します。
 例えば、その月の歩合給が80万円で総労働時間が200時間だとします。1時間単価は80万円÷200時間=4000円/時間。1日の平均所定労働時間が8時間/日とすると4000円×8時間=3万2000円/日となります(※筆者注:いくつか労働基準監督署に問い合わせましたが明確な回答は得られませんでした。労働基準法施行規則25条によれば上記のようになります)。


 1日休ませて3万2000円も支払うのですか。同じような人が5人もいれば3万2000円×5日×5人=80万円ということですか。


 そうです。しかも6年半勤務すれば、20日の有給休暇の権利が発生します。勤務期間が6年半以上のベテランの先生方が有給を完全取得すれば、有給休暇中賃金だけで数百万円になることも考えられます。


 ところで、労働時間を把握すると残業時間がはっきりします。当院では完全歩合給ということもあって、これまで残業代のことは気にしてきませんでした。完全歩合給でも残業代は支払わなければなりませんか。


 時間外労働が発生すれば残業代は支払わなければなりません。


 歩合給の場合、どうやって計算するのですか。


 歩合給を総労働時間で割って1時間単価を算出し、割増率をかけて算出します。先ほどの事例だと、歩合給80万円÷総労働時間200時間=4000円/時。月の時間外労働時間が30時間とすると、4000円×30時間×0.25=3万となります。


 割増率は0.25ではなく1.25ではないのですか。


 残業代割増率は(1+0.25)です。歩合給の場合1の部分はすでに支払っているので1時間単価に0.25をかければいいのです。実務上では就業規則(賃金規程)に歩合給か諸手当なのかを明確にする必要があります。

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