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月給制でも賃金カットができるか

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

月給制でも賃金カットができるか
【2009年1月】


 私の診療所は、月給制の職員には賃金カットしていませんでした。とこちが、最近入社した看護師の職員が毎月1日欠勤します。他の職員とのバランスもありますから、欠勤分を賃金カットしました。月給制の場合、欠勤した分を賃金カットするのは問題あるでしょうか。

A
 労働基準法上は、月給制だからといって欠勤・遅刻などの不就労の部分を賃金カットしても、法律違反ということにはなりません。


 ところが、当人の夫が「労働基準法には『賃金全額払い』の原則がある」と電話で言ってくるのです。

A
 確かに、労働基準法第24条1項には「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」とあります。しかしこれは、働いたことにより請求権の生じた賃金については支払わなければならないというものであって、欠勤によって請求権のない賃金まで支払えといったものではありません。


 しかし、彼女の夫の会社では1カ月当たり3日までの欠勤については賃金カットしないといっています。だから1日ぐらいの欠勤で賃金カットするのはおかしい、と言っています。

A
 基本はノーワーク・ノーペイですから、欠勤に対応する賃金をカットしても労働基準法上は問題ありません。ただし、「完全月給制」で欠勤しても賃金カットしないで全額支給する旨を定めている場合は、賃金カットできません。先生のところの就業規則はどうなっていますか。


 今まで、欠勤するような人はいませんでしたし、仮に子どもの学校のことで欠勤する場合でも有給休暇を利用していたので、このような問題は起きませんでした。従って就業規則もありません。

A
 確かに、現在の日本の企業のかなりのところが、月給制の場合賃金カットの定めをしていません。完全月給制で欠勤しても賃金を減額しないで済むところはそれでいいでしょうが、小さい事業所ではそうもいきません。労働者が10人未満のところは就業規則を作成して労働基準監督署へ届ける義務はありません。しかし、このようなトラブルをなくすためにも、欠勤した場合には賃金カットをすることを明確にした就業規則を作成しておくことが必要です。


 今まで賃金カットをしてこなかったのに、急に変更するのは問題ないでしょうか。

A
 確かに労働者にとっては問題があるかもしれません。2008年3月1日に施行された労働契約法では、「使用者は、労働者と合意することなく就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更できない」としながらも、労働者の受ける不利益の程度など諸般の事情に照らして合理的なものである場合は、「当該変更後の就業規則の定めるところによる」としています。


 そうすると、欠勤した場合の賃金カットを明確にした就業規則を作成しても、問題はないということですか。

A
 私は、問題ないと思います。しかし、よく話し合い説明することは必要です。それに、毎月欠勤するのは中小企業では他の労働者の負担が大きくなりますから、時間給に変更するか、あまりにもわがままであれば厳しい対応を検討してもいいかもしれません。何でその看護師は毎月欠勤するのでしょうか。


 なんでも子どもがピアノを習っているので連れて行かなければならない、とのことです。

A
 それこそ、その旦那さんの会社は3日欠勤しても賃金カットがないのですから、旦那さんに子どものピアノ教室の送り迎えをやってもらったらいいと思います。


 旦那さんの勤め先は、大手企業で有給休暇もまったく取れないところで、とても子どもの送り迎えは無理とのことです。

A
 私は以前から、日本の大企業の長時間労働で有給休暇もろくにとれないやり方は問題あると思っていました。これが日本の労働条件が改善しない最大のネックだと思っています。

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