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時間外労働はなぜ許されるのか

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

時間外労働はなぜ許されるのか
【2017年1月】


 電通の過労死は長時間労働によるものとされましたが、100時間を超える残業がなぜ可能なのでしょうか。


労働基準法では 1週間について40時間(労働者10人未満の医療機関などの特別対象事業所は週44時間まで可能)、1日8時間を超えて労働させてはならないとなっています。この時間を超えて労働させると6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金となっています。ところが労働基準法第36条で労働者代表と通称「36(サブロク)協定」を結べばこの時間を超えて労働させても罰金刑にも懲役にもならないことになってしまいます。


 36協定を結べば何時間残業させてもいいのですか。


 一応厚生労働省の告示では1ヵ月45時間というような基準は出しています。


 実際にはそれ以上残業をしているところはたくさんありますね。


 特別条項付の協定、たとえば急患に対応しなければならないときは労使話し合ってこの時間を延長できるという特別条項を設けておけば、仮に80時開でも残業させることができるようになっています。


 そうするとその36協定を結べば残業させても問題はないのですか。


 きちんと結べば労基法上は問題ありません。それでも80時間以上の残業をさせ脳疾患・心疾患で死亡すると過労死ということになります。こうなると電通事件でも明らかのように、経営者に対するダメージは大変なものになります。


 私の診療所では普段残業がないせいか、36協定など結ばなくても、緊急のときはみんな残業をしてくれますよ。


 36協定を結ばずに残業させている中小企業は半数近くあります。労使トラブルがない事業所では問題が表面化しませんが、36協定なしの残業は懲役刑、罰金刑にしようと思えばできますから、万が一のことを考えれば極めて危険です。


 労働者代表と36協定を結べばいいのですね。


 しかし、最近では労働基準監督署あるいは一人でも加入できる労働組合「ユニオン」から労働者代表をどうやって選出したか、厳しく追及されるようになりました。「いい加減に選出した労働者代表との36協定は無効だ。それに基づく残業は違法だ」というわけです。


 どうやって決めれば問題ないのですか。


 当然、みんなで話し合って決めてもいいわけですが、押さえるべきことはしっかり押さえることが大切です。36協定の意義を話し、そのための代表だということを明確にしなければなりません。医療機関では簡単には残業をなくすことができないのでこうした手続きを軽視しないことです。


 私も病院に勤務していた時はずいぶん残業をしましたが、36協定など見たこともありませんでした。


 先生が勤務していたころと時代が違ってきています。それに36協定を結べば残業させてもいいというわけではありません。残業が日常化しているところはブラック企業と見られ、若い人が来なくなってしまいます。少子高齢化の下では、「残業を減らしていこう」と常に考え若者にとって魅力ある企業にしていかないと生き残れないと考える経営者も増えてきました。

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