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患者からの暴力によるケガの治療は健康保険か労災保険か

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

患者からの暴力によるケガの治療は健康保険か労災保険か
【2019年4月】


 患者から胸を思い切り突かれ女性スタッフがケガをしました。病院内で起きたことですが健康保険は使えるでしょうか。


 どのような経過でケガをしたのですか。


 スタッフが、喫煙をしようとした患者を注意したところ、カッとなって胸を突いたようです。


 喧嘩でもなく一方的にやられたもので、しかも院内での喫煙を注意することは医療スタッフとしては業務と言えますからこれは業務災害です。従って健康保険は使えません。労災保険を使うことになります。


 医療費は労災保険から支給されるのですか。


 そうです。ただ労災保険に請求し医療費が支給されたからといって、これでケガをさせた加害者の責任が無くなるわけではありません。「第三者行為」になりますから加害者に請求が行きます。


 「第三者」ってなんですか。


 第三者とは、該当する災害に関し労災保険の保険関係の当事者(政府、事業主および保険関係の受給者)以外の者、この場合は被災したスタッフをいいます。胸を突いた暴力行為を犯した加害者が「第三者」です。
 加害者が本来負担すべきものを労災保険が支払ったわけですから、労災保険は第三者に対する損害賠償の請求権を取得します。従って労災保険(政府)は保険給付価額の限度で加害者に求償します。


 労災保険から加害者のところに請求が行くのですね。


 そうです。具体的には労働基準監督署から請求が行きます。訪問看護で患者の家で飼い犬にかまれてケガをしたときなどは飼い主に請求が行きます。


 そうするとこの場合、加害者が怒ってくるのではないでしょうか。


 その可能性はありますが、だからと言って健康保険は使えません。労災保険を使わないのであれば自費ということになります。しかし、このまま暴力を放置しておくと、ますます加害者を付け上がらせ暴力が広がる可能性があります。
 保険医協会の会員医療機関でも警察に対して威力業務妨害として刑事告訴を検討するなど、きちんと対応しているところもあります。「院内暴力」に詳しい関西医科大学の三木明子教授は「医療機関側が適切な対応を取らないと、診療機能が低下するばかりでなく、職員が退職に追い込まれる不幸な事態を招きかねない」と警鐘を鳴らしています。


 しかし、なかなか難しい問題ですね。


 院内暴力防止に向けた啓発ポスターを張るなどして院長がトップとしての決意を示すことなどは、比較的に取り組みやすいと思います。三木教授らの研究グループがこうしたポスターを作製し、関西医科大学のウェプサイトで無料ダウンロードできるようになっています。
http://www.kmu.ac.jp/faculty/fon/field/topics/seishinkango/index.html

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