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引き継ぎもしないで突然退職する職員への対処は

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

引き継ぎもしないで突然退職する職員への対処は
【2006年4月】


部門の責任者をしている看護師が今月の初めに辞めたいと退職届を提出してきました。残りは有給休暇をとるといってそれから出勤しません。こんなことは許されるのでしょうか。

A
一応、退職の申し入れをしてから2週間したら退職は有効とされています(月給制の場合特例あり)。


私は退職を承認していませんが、それでも退職ということになるのでしょうか。

A
事業主が労働者を解雇するときは厳格な規制がありますが、労働者のほうが一方的に辞める場合は法律上規制はありません。


しかし、責任ある立場で患者さんに対しても迷惑がかかるのにそれでも法律上の規制はないのでしょうか。

A
そうですね。建前からすれば憲法18条で「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」が根拠になって、働きたくない人を無理に働かせることはできないということになります。


別に「苦役」をさせるわけでなく責任を果たせといっているだけです。それにこの看護師は能力的にも落ちるので私にどれだけ迷惑をかけたかわかりません。私としては、看護師として一番手をかけただけにこのような形で退職することに納得ができません。それに手をかけただけにほかの看護師よりもより熱い思い入れをもって接してきたつもりです。

A
人間不信をあおるようですが、私が付き合っている経営者からも、面倒を見た社員ほど裏切るこことが多いということを聞きます。


なんで世話のやける従業員ほど手がかかるのに、それをありがたいと思って経営者に感謝するどころか、むしろ結果として迷惑をかけるのでしょうか。

A
結局能力があって責任感も協調性もあり性格もいい人はいろいろ言わなくてもキチッとしたことをしてくれるので、面倒もかからないのだと思います。逆に協調性もなく規律性も責任感もなく能力のない人は、ミスも多いし、教育しても効果がなかなか出ないので手間もかかるのだと思います。


そのようなことを自覚していてくれればいいのですが、そのような従業員に限って自分のことを高く評価しているので難しいです。

A
石川啄木も「人並みの才に過ぎざるわが友の深き不平もあはれなるかな」「誰が見てもとりどころなき男来て威張りて帰りぬ悲しくもあるかな」と歌っているように、自分自身を知ることは難しいことです。


それはそうと、退職前まですべて有給休暇をとるといってきていますが、これも認めなければならないのでしょうか。

A
有給休暇は法律上当然に生ずる権利とされていますから、認めなければなりません。使用者が対抗できるのは、時季変更権だけです。
時季変更権は、事業の正常な運営が妨げられるときは他の時季に変更できるとされているだけです。たとえ事業の正常な運営が妨げられても、この場合他の時季に変更しようにも、できませんから癪に障るかもしれませんが認めざるを得ません。


退職金はどうでしょうか。「引き継ぎもせず承諾なしに退職した者には退職金を支給しない」と就業規則に書いてあります。

A
一般的にはたとえそのように書いてあっても支給せよという判例が多いようですが、そうでない判例もあります。


それでは、私のところの場合退職金を支払わなくていいでしょうか。

A
支払わなくても直ちに労働基準法違反となるわけではありません。最終的には裁判で決めることになります。しかし裁判になる前に話し合って、きちんと引き継ぎをさせるように努力をしていただいたほうが現実的だと思います。

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