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年俸制は残業手当を支払わなくていいか

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

年俸制は残業手当を支払わなくていいか
【2013年8月】


 経験年数5年の医師が、働きに来てくれることになりました。年俸で契約したいと思います。この場合、残業手当は支払わなくていいのでしょうか。

A
 仮にその方が労働基準法第41条にいう管理監督者であれば、残業代の問題は発生しません。しかし、ほとんどの場合「管理監督者」と認められませんから、年俸制と言っても残業手当を支払わなければなりません。


 私が勤務医の時は、年俸制の場合、残業手当など請求したこともありませんでした。これが一般的ではないのですか。

A
 日本の場合、多くの医師は、その強い責任感から残業代など気にせず、また請求せずに働いていますが、本来は残業手当を支払わなくてはなりません。


 しかし私どもの医療機関では、年俸制の金額以上に支払うことは経営的に困難です。

A
 支払えないから支払わなくて良いということになりません。極端に言えば、医療機関がつぶれようと、残業割増賃金を支払わないのは違法ということになります。


 しかし、実際は、年俸制を導入している会社は多いのではないですか。そのような会社は残業割増賃金をどうやって計算しているのですか。

A
 年俸を所定労働時間で除して、時間単価を算出して、割増賃金を計算しています。


 私の医院では、年俸を15等分して、夏1カ月、冬2カ月分を賞与として支給しますが、この賞与部分は割増賃金の計算の時、算入するのですか。

A
 この場合は算入します。


 一般の職員の場合、賞与は残業手当に参入していませんが。

A
 労働基準法などでは家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、一定の条件の住宅手当、臨時に支払われた賃金1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金は、算入しないことになっています。
 一般的に賞与は、従業員の成績や会社の業績により変化しますから確定できません。しかも1カ月を超えるごとに支払われますから、割増賃金の基礎には算入されません。ただし、賞与とされていても支給額があらかじめ確定している場合は、賞与とみなされず割増賃金の基礎となります。


 年俸の中に、割増賃金が含まれているという方法はどうでしょうか。

A
 それは可能ですが、どの部分がいくら含まれているか明確にしなければなりません。定額残業制と言って、例えば「業務手当は全て残業割増賃金、深夜手当、休日出勤手当として支払う」と就業規則に記載されていて、その通り賃金計算されていれば良い、ということになります。ただし、実際に働いた割増賃金が定額部分を超えた場合は、超えた部分は支払わなければなりません。労働者の不利益になるような就業規則を変更する時には、労働者の同意が必要です。

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