奈良県保険医協会

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奈良県の地域別診療報酬は断固反対―医療の質の低下、県民の医療サービス低下にもつながる

 奈良県が3月下旬に発表した第3期医療費適正化計画の中で突如出された「地域別診療報酬」に対し反対の声が各方面から上がっている。計画に定めた医療費目標(2023年度、4813億円)の達成が図れない場合に、診療報酬単価を奈良県独自に引き下げることで、国保保険料の引き上げを回避するという計画である。
 地域別診療報酬の実施はたちまち県民の暮らしや経済に直結する。それぞれの地域に開設される医療機関には当然その地域の人々も多く医療従事者として働いている。もし奈良県だけ1点単価が10円から9円などということになれば、経営難に直結し、医療従事者の人件費にも手を入れざるを得なくなることは容易に想像できる。結果として、県内の就業環境の変化が引き起こされる可能性がある。また、医療機器の更新などの設備投資意欲の減退などにより、医療の質の低下をきたし、県民が受けられる医療サービスの低下につながりかねない。
 細かいアウトラインはまだ何も決まっていない状況だが、例えば県境の住民は、大阪や京都の医療機関で受診すると1点10円、県内で受診すると1点9円などとなり、同じ治療を受けても窓口負担が異なるなど、混乱する事態になりかねない。また救急などで他府県に搬送される際に奈良県民は差別を受けることも危惧される。
 奈良県では過去に救急搬送に時間がかかり妊産婦が死亡するなどの事案の反省の下、医療機能を改善するため、行政、医療関係者による体制強化が行われ、総合周産期母子医療センターの設置やドクターヘリの運用などにより、新生児救急の県外搬送率が大幅に減るなどの改善が見られた。課題は残るものの、行政・医療関係者の努力により一定の評価もされてきた奈良県の医療を地域別診療報酬の導入というような愚策により低下させてはならない。
 2008年に制定された、高齢者の医療の確保に関する法律に全く違った趣旨で存在したが使われることのなかった「地域別診療報酬」であるが、財務省の財政制度等審議会や、国の経済財政諮問会議で「活用」が提言、議論されつつある。その際には、奈良県の医療費適正化計画に盛り込まれた事例が示され、国の議論をリードする材料にされようとしている。
 奈良県保険医協会は、医療費抑制策の新たな具体化へ奈良県が先鞭をつけ、悪しき先駆者の役割を負わされることにも断固、反対する。

【奈良保険医新聞第430号(2018年7月15日発行)より】

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