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国税通則法「改正」で変貌する税務調査と医業税制

経営に役立てる医院の会計と税務 税理士 西村 博史

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【2011年12月】国税通則法「改正」で変貌する税務調査と医業税制

 平成23年11月30日国税通則法「改正」を含む所得税法等の一部を改正する法律が成立しました。この法律が今後の税務調査などに与える影響を報告します。

見送られた権利規定

 当初この法案には、(1)納税者権利憲章の制定(2)税務調査の文書による事前通知規定(3)納税者側から税額減額等を修正する請求(更正の請求)期間を延長するなど不十分ながら一定の納税者の権利を前進するための規定が盛り込まれていました。
  しかし、納税者権利憲章の制定は見送り、税務調査の事前通知は従来通り口頭通知となりました。

帳簿書類等の提示・提出義務の新設

 権利規定が見送りになった反面新たに税務調査権限の大幅な強化が法定されました。 罰則付き(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金刑)で納税者に対して税務署が帳簿や書類等の調査物件を提示・提出させる権限が法定化されました。国会質問では、「あくまで納税者の承諾の下で行う」との回答ですが、医師のカルテなどの提示・提出が強制される事も想定されます。守秘義務を盾にきっぱりと拒否する姿勢が必要です。
  また、提出書類等を税務署に留め置く規定も新設され、任意調査の枠を超えた査察調査まがいの調査を許さない納税者の断固とした対応が必要となります。

増額更正期間を5年に延長

 今回の「改正」で、納付過大となった税額等を税務署に対して還付等請求できる期間が5年(現行1年)に延長されました。その反面、税務署が過少な税額等を増額できる期間も5年(現行3年)に延長されました。結果的に税務調査の期間も5年間(現行3年間)に延長される可能性があります。

白色申告者の記帳義務

 従来、年間所得300万円以下の零細な白色申告者はその事務負担に配慮し記帳義務が免除されていました。今回、すべての事業者に記帳義務を課すこととなりました。これは、白色申告者に対しても税務署が更正等の処分理由を附記することとした見返りとして、なし崩し的に「改正」されたものです。
  注意すべきは、措置法26条の見直し議論と並行して白色申告者の記帳問題が論議されたことです。今後、白色申告者などの記帳義務を厳格に強制し、その結果から独断的に措置法26条の縮減の根拠が導き出される事が危惧されます。
  今回の「改正」は、来るべき消費税大増税に備える税務当局の地固めであるとも言われています。納税者の権利が真に尊重される税務行政に向けた運動が求められています。

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