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同一労働同一賃金で、効率の悪い職員の給料はどうなるのか

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

同一労働同一賃金で、効率の悪い職員の給料はどうなるのか
【2021年3月】


 うちのクリニックにはパートが7人、正社員が3人います。給料は勤務年数で決めてきました。中には、新人の職員より仕事の効率の悪い職員がいます。4月より中小企業でも「同一労働同一賃金」の適用が始まりますが、仕事の効率の悪い職員は新人と比べると同一以下の仕事をしているわけですから、新人の給料に合わせて見直すことになるのでしょうか。


 確かに「同一労働同一賃金」というと「同一の労働には同一の賃金を支払わなければならない」と思ってしまう方も多いと思います。しかし、厚生労働省の「同一労働同一賃金に向けた検討会」のメンバーでもある東京大学の神吉知郁子准教授によれば、「同一(価値)労働には同一の賃金を支払わなければならない」というような一般原則は「日本および諸外国において存在しないし裁判でも認められたことはない」ということです。「同一労働同一賃金」は、正規労働者と非正規労働者の不合理な待遇差をなくそうという意味です。


 同じパート社員ですが、勤務年数が長いのにもかかわらず、新人のパートに比べて書類処理能力などが低い者がいます。勤務年数が長いというだけで新人パートより高い時給賃金を支払っていますが、このようなことは問題ないのですか。


 同じパート同士ですから、どんな違いがあっても今回の法改正の対象にはなりません。


 友人の医院で、娘さんがパートとして勤務しています。そんなに能力があるとは思えませんが、院長の娘というだけで他のパートの3倍の時給を払っています。


 やはり同じ非正規ですから、法的には問題ありません。そもそも労働法には最低賃金法はありますが、最高賃金法はありません。憲法22条で契約の自由は保障されていますし、賃金などは当事者同士交渉して自由に決めることが原則です。今回問題になっているのは短時間労働者、期間が定められた契約社員など、非正規労働者という理由だけで不合理な格差をつけてはいけないということです。例えば、パートであることを理由に通勤手当を支払わないのは不合理な格差となります。正社員でもパートでも通勤には費用が掛かるからです。


 賞与などはどうですか。私のところでは、パートには気持ち程度しか出していません。


 今回の法改正で注意が必要なのは、説明義務の強化です。これまではパートから「なぜ私には賞与がないのですか」と聞かれた場合「説明の義務はない」と答えても通用したのですが、これからは説明の義務が生じます。例えば、「賞与については優秀な人材に定着してもらうために正社員には賞与を支給し、長期雇用を前提としていない非正規にはそれなりの額を支給するとした」といった説明です。ちなみに2020年の大阪医科大学の事例では最高裁は元アルバイトに賞与を認めませんでした。厚労省は「同一労働同一賃金ガイドライン」(厚労省のサイトから無料でダウンロードできる)を公開しています。これなどを参考に、今ある「手当」の性質趣旨などを再点検すると良いかと思います。先日、あるクリニックで賃金台帳を見ていたら「その他手当」というのがありました。このような趣旨目的が不明な手当は見直しが必要となってくるでしょう。

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