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台風で出勤できない職員への賃金は

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

台風で出勤できない職員への賃金は
【2019年12月】


 台風により災害の発生や交通機関の混乱が予想されました。無理して出勤するのは危険と判断し職員に連絡し休業させました。この場合賃金は支払わなければならないのでしょうか。


 診療所の施設や設備はどうだったのですか。基本的には、台風により事業場の施設・設備が直接被害を受けていない場合は「使用者の責めに帰すべき事由」による休業ですから休業手当を支払う義務があります。


 幸い直接的な被害はありませんでした。しかし、あんなにひどい台風の時に無理して出勤しろとは言えないでしょう。


 厚生労働省は①その原因が事業の外部により発生した事故であること②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たした場合は、使用者の責めに帰すべき事由による休業ではないとしています。


 今回の台風はその2つの条件を満たしているのではないですか。


 激甚災害に指定された地域は満たしていると思います。具体的には様々な条件を総合的に判断する必要があるとしています。「総合的に判断」という何を基準にしていいか分からない言い方ですが、私としては今回の場合、できたら通常の賃金を支払い、最低でも休業手当を支払うようにした方がいいと思います。


 休業手当はどうやって計算するのですか。


 一般的には賞与を除く過去3カ月間の賃金を合計し、それを暦日で除して平均賃金を算出しその額の60%が休業手当です。


 有給休暇にしてもいいのですか。


 年次有給休暇は労働者が請求する時季に与えなければならないとされていますから、使用者が一方的に有給休暇にするよう命ずることはできません。しかし、話し合って職員の同意を得て有給休暇にすることは可能です。


 有給休暇の権利のない職員の場合はどうなりますか。


 有給休暇にしても休業手当でもいいと思います。


 災害地域でボランティア活動をするので有給休暇を請求してきた職員がいます。私のところもかなり忙しいのですが、この場合、有給休暇を与えなければいけないのでしょうか。


 労働基準法では使用者は労働者の請求する時季に与えなければならないとしています。ただ、事業の正常な運営を妨げる場合は他の時期に与えることができます。


 いつも忙しいので休まれるとかなり困ります。


 事業の「正常な運営を妨げる場合」ですから、ただ忙しいという理由だけでは時季を変更することはできません。
 今回台風を機に休業についていろいろな問い合わせがありました。今後、冬にかけて家族がインフルエンザに罹患した場合、休業を命ずることができるかなどの問題が出てきます。厚労省も「発症者と同じ職場の労働者などの濃厚接触者でも、インフルエンザ様症状がない場合は、一般的には仕事を休ませずに職務を継続することが可能となると考えられますが、職務の必要性や内容に応じてその継続の可否を判断して下さい」としています。
 早めに対応を決めて職員に周知しておくといいと思います。

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