奈良県保険医協会

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受診抑制と生活不安を増大させる県の福祉医療制度“後退”は阻止しよう

 奈良県は12月9日、福祉医療制度の「改正」を決定した。
 福祉医療制度は、老人医療費助成(老)をはじめ、乳幼児医療費助成乳(幼)、心身障害者医療費助成(障)、母子家庭医療費助成(母)、重度心身障害老人等医療費助成(重)であり、県と市町村が費用負担して実施している。主なものは1973(昭和48)年に開始され30年以上にわたって県民を支えてきた。2003年度はこれら全体でおよそ91000人に44億円の助成がなされた。
 県が「改正」するおもな内容は、(1)(老)の廃止、(2)乳児と幼児の制度を統合し入院のみ対象年齢を2歳児までから就学前まで拡大、(3)すべてに月定額の一部負担金、通院500円・入院1000円を導入、(4)給付方法を新たな自動償還方式に統一――というもの。これらを一体として、医療証の更新時にあわせて今年8月にも県下一斉に実施するという。
 その特徴は一部の改善を含むものの、(老)の廃止など受給者の負担を大きくするとともに利用しにくく(受診しにくく)するということである。
 自動償還方式の導入は、現に償還払いの方には、受給者も医療機関も行政にも事務の簡素化で改善と言えるが、現物給付の方には改悪でしかない。所得 制限の厳しい福祉医療ではいずれも経済的な弱者が対象である。例えば、障害者の家庭は医療以外の出費も少なくない。加えて医療ニーズも高く、負担金も小さくない。一部負担の導入とともに、窓口での立て替えが強いられることの打撃は、間違いなく受診の抑制と、生活不安を増大させる。
 県は、福祉医療を将来にわたって継続するために必要な見直しという。つまり財政面の課題である。しかし、この制度の果たす役割を考えると、受給者へのしわよせで解決するのは本末転倒だ。弱者を最低限で支えているものを壊してはならない。また、乳幼児医療費助成は少子化対策という角度からもっと強化されてしかるべきだ。
 検討の過程にも疑義がある。福祉医療検討委員会は行政関係者と県の審議会メンバーで構成され、受給者や医療担当者は含まれていない。見直し内容は11月半ばに突然公表され、県民の意見を聞く場ももたず12月に早々に実施を決めた。県民不在だ。
 国は「三位一体」改革と称して、国の責務と負担を地方へ押しつけている。県や市町村財政が苦しくなって、福祉医療さえ削るうごきが他府県でも相次いで現れている。国の悪政のツケが地方にも及んでいる。国に対しても転換を求めることが 必要だと考える。
 とはいえ、これを弱者に転嫁するのでなく、県民の医療・福祉を守るのが県政の務めではないか。
 福祉医療制度の後退は何としても阻止しよう。

【奈良保険医新聞第272号(2005年2月10日発行)より】

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