奈良県保険医協会

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反面教師である米国の医療制度から学ぶべきこと

医療政策の3つの肝
 医療政策は3点(医療の質、コスト、アクセス)が考慮されなければならない。医療の質は医療技術、コストは医療費、アクセスは受診しやすさと解されるが、この3つともを同時に満足させることは至難の業である。米国の医療制度を採点すると―米国の医療制度は最先端の医療技術を持ち医療の質は高いが、コストが高くアクセスが悪いため、先進国のなかでは最悪のシステムである。

米国の医療制度の歴史と特徴
 米国は建国の精神(ヨーロッパの旧弊から解放されること)の影響が強く、国民が政府の一元管理する皆保険制度を容易に受け入れないため、代替に民間医療保険を進化させた。それを後押ししたのは米国医師会で、医療費(診療費、薬価)を決めることは医師の既得権と考えていた。
 しかし、民間医療保険は営利企業であるため、利益を出すために被保険者に支払う医療費を縮小させる仕組みを進化させた。一つはできるだけ健康な人を勧誘し、病気になりやすい人を排除した。また被保険者が疾病になった場合の医療費を削るため治療に係ることを制限(診察可能な医師の限定、対象疾患の限定、給付費用の範囲の限定)した。その結果、医療方針を決めるのは民間医療保険会社であり、皮肉なことに医師の裁量権は失われた。

米国の医療制度の改革
 民間医療保険の複雑なシステムと保険料の引き上げ、さらに無保険者の増加(人口の約9~15%)を解消するため、部分的な皆保険制度の導入(ある程度中央政府の規制を許し、各州政府もそれを容認)を考え、1965年にメディケア(65歳以上)ならびにメディケイド(生活困窮者)を成立させたが、あくまで主体は民間医療保険で政府の補助はわずかであった。
 さらに米国の経済悪化により収入が減った勤労者層(人口の約67%)が民間医療保険を維持できなくなりそれを改善するため2010年にオバマケアが成立した。オバマケアの本質は、無保険者の保険加入の義務化と雇用主に被用者への保険提供を義務化したことである。しかし、その実現には様々な勢力の衝突が続き未だに紛糾している。

日本の医療制度改革の方向を考えよう
 米国はコストとアクセスの欠点を補うために皆保険制度を志向しているが、発達しすぎた民間医療保険が厚い障壁となっている。一方、日本はすぐれた皆保険制度を持つが、近年の急速な医療費の高騰と老齢人口の増加でコストは維持できなくなってきている。皆保険制度を維持させつつ、この喫緊の問題を乗り越えるためには医療の主体であるわれわれ医療人が積極的に発言しなくてはならない。

【奈良保険医新聞第416号(2017年5月15日発行)より】
図:米国と日本の医療制度

主張

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